育児短時間勤務に係る給付金・助成金を上手に活用しよう!/社会保険労務士小河みさき

「同時活用で働きやすさと生産性向上を図る」

毎年 4 月は、厚生労働省管轄の各種給付や助成金が見直されるタイミングです。このところ少子・高齢化対策にかかるものが多いですが、今年度も育児休業等関係で2つの給付金が新設されています。雇用保険料を財源とした育児休業等に関する給付金は年々数が多くなり、取り扱い事務も繁雑になってきていますが、上手く活用することによって、ぜひ人材の確保や働きやすい職場環境の整備に役立てていただければと思います。

下図の「出生後休業支援給付金」「育児時短就業給付金」が、2025 年 4 月 1 日に新設された給付金です。

 

資料出所:厚生労働省 HP 育児休業等給付について
資料出所:厚生労働省 HP 育児休業等給付について

このたびは、本年 4 月に新設の「育児時短就業給付金」と昨年 12 月 17 日に見直しのあった「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース」を組み合わせて活用することにより、組織の生産性を上げつつ、育児と仕事の両立を促進し、「働きやすく人が集まる、人が辞めない組織」にする取り組みについてお話しします。

Ⅰ 育児時短就業給付金の概要

1.対象者(受給資格):①②のいずれも満たす人

① 2 歳未満の子を養育する雇用保険の被保険者で、1 週間あたりの所定労働時間を短縮して就業する人

② 育児休業給付の対象となる育児休業から引き続き、同一の子について育児時短就業をする人、または、育児時短就業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が 11 日以上ある(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が 80 時間以上ある)完全月が 12 か月ある人

 

2.支給要件:①~④のすべてを満たす月について支給

① 初日から末日まで続けて、被保険者である月

② 1週間当たりの所定労働時間を短縮して就業した期間がある月

③ 初日から末日まで続けて、育児休業給付又は介護休業給付を受給していない月

④ 高年齢雇用継続給付の受給対象となっていない月

 

3.支給額

①支給対象月に支払われた賃金額が育児時短就業開始時賃金月額【1】の 90%以下の場合

育児時短就業給付金の支給額 = 支給対象月に支払われた賃金額 × 10%

 

② 支給対象月に支払われた賃金額が育児時短就業開始時賃金月額【1】の 90%超~100%未満の場合

育児時短就業給付金の支給額 = 支給対象月に支払われた賃金額 × 調整後の支給率

 

③ 支給対象月に支払われた賃金額と①又は②による支給額の合計額が支給限度額を超える場合

育児時短就業給付金の支給額 = 支給限度額- 支給対象月に支払われた賃金額

 

【1】 育児時短就業開始時賃金月額=同一の子に係る最初の育児時短就業開始前直近 6 か月間の賃金/6

3の支給額計算式からわかるように、単純に「育児時短就業中の各月に支払われた賃金額 × 10%」が受給できるわけではありません。支給額と各月に支払われた賃金額の合計が、 育児時短就業開始時の賃金額を超えないよう支給率を調整するようになっています。その他 にも支給要件や注意事項がありますので、支給申請手続きの最新のパンフレット等でご確認 ください。

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001395073.pdf

Ⅱ 両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コースの概要

両立支援等助成金は、仕事と育児・介護等の両立支援に取り組む事業主に支給される助成金です。そのうち「育休中等業務代替支援コース」は、育児休業取得者や育児のための短時間勤務制度利用者の業務を代替する周囲の労働者への手当支給等の取組みや、育児休業取得者の代替要員の新規雇用を行った場合の助成となっています。

 

1.支給対象と支給要件

助成金の受給事由 取組みの内容
 ① 手当支給等(育児休業)  育児休業取得者の業務を代替する周囲の労働者に対し、手 当支給等の取組を行った場合
 ② 手当支給等(短時間勤務)  育児のための短時間勤務制度を利用する労働者の業務を代 替する周囲の労働者に対し手当支給等の取組を行った場合
 ③ 新規雇用(育児休業)  育児休業取得者の業務を代替する労働者を新規雇用(派遣 受入れ含む)により確保した場合 

① ②は労働者数 300 人以下の事業主、③については中小企業のみが対象です。

 

2.支給額:育休中等業務代替支援コース

① から③合計で 1 年度 10 人まで、初回から 5 年間の支給となっています。

助成金の受給事由 制度利用者 1 人あたり
  ① 手当支給等(育児休業) 

 ◆業務体制整備経費 1 人目 20 万円(社労士委託なしの場合 6 万円)

◆業務代替手当 支給額の 3/4

※上限計 10 万円/月、12 ヶ月まで 最大 140 万円

「休業取得時」30 万円+「職場復帰時」110 万円

② 手当支給等(短時間勤務) 

◆業務体制整備経費 1 人目 20 万円 (社労士委託なしの場合 3 万円)

◆業務代替手当 支給額の 3/4

※上限計 3 万円/月、子が 3 歳になるまで 最大 128 万円

「育短勤務開始時」23 万円+「子が 3 歳到達時」105 万円

 ③ 新規雇用(育児休業) 

◆代替期間に応じ以下の額を支給

(最短)7 日以上 9 万円

(最長)6 か月以上 67.5 万円

最大 67.5 万円

 上記のほか、有期雇用労働者加算(10 万円)や育児休業等に関する情報公表加算(2 万円)が あり、要件を満たした場合に支給額が加算されることになっています。 最新情報は、こちらの厚生労働省サイトでご確認ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html

Ⅲ 給付金と助成金の組み合わせ活用の効果

「育児時短就業給付金」は短時間勤務を行う本人への給付金ですが、「両立支援等助成金」は取り組みを行った事業主に支給されるものです。

 

1.働く人の傾向

子が 3 歳未満の場合、労働者が希望すれば利用できる短時間勤務制度の措置を設けることが事業主の義務になっています。厚生労働省の調査(2021 年)では、女性・正社員については、子が生まれてまもなくは休業、1 歳以降は短時間勤務を希望する割合が高いものの、3歳以降は、残業をしない働き方や、柔軟な働き方(出社・退社時間の調整)を希望する割合の方が高くなっており、男性正社員についても、残業をしない働き方や柔軟な働き方を希望する割合がどの年齢でも約 2 割であるほか、短時間勤務についても一定のニーズが存在することがわかっています。今後はこの傾向がさらに強くなると思われます。

 

2.収入を減らさない短時間勤務

育児休業に比べると育児短時間勤務は男性も利用しやすいのではないかと思いますが、残念ながら男性の制度利用率は高くありません。その大きな理由の 1 つに短時間勤務をすることによる収入の減少がありました。このたび新設された「育児時短就業給付金」は支給限度額 459,000 円(2025 年 7 月 31 日まで)ですから、収入を減らすことなく短時間勤務ができる男性も多くなるはずです。男性がもっと短時間勤務制度を利用することで、女性に偏りがちな育児の負担を分担することができ、お互いのキャリアを大切にしながら子育てすることが可能になります。ただし、子が 2 歳になれば本給付金は終了しますので、活用効果が見られれば、いずれ 3 歳までに延長されることを期待したいところです。

 

3.現実問題への対応

とはいえ、現実的な問題として、人手不足・人材不足に悩む中小企業にとって、何も打ち手がないまま正社員の男性の育児休業や育児短時間勤務が促進されて、マンパワーが減少することは死活問題といっても過言ではないと思われます。

そこで「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース」の業務体制整備経費の助成です。業務代替する従業員に手当を支給するだけでなく、業務の見直し・効率化のための取組みを実施していることが支給の要件となります。

(1) 業務の一部の休止・廃止

(2) 手順・工程の見直し等による効率化

(3) マニュアル等の作成による業務、作業手順の標準化

(1)から(3)のうち、いずれかを実施します。時短勤務で育児を行う従業員の負担を減らし、同時に業務のあり方、内容、遂行方法などを見直して生産性をあげようというものです。さらに業務を代替する周囲の従業員に対して手当を支給することで、負担増への気持ちに配慮し働きやすい環境づくりへの協力を求める形です。

今後も生産人口は減少し続けます。そして賃金は当面上昇傾向が続くでしょう。目の前の課題解決と少し先の問題(例えば若年労働者の採用や定着)への対応とを同時に行うには、この 2 つを組み合わせて活用することが有効ではないでしょうか。若年者に自社の魅力を伝えて採用難という今の状況を何とかしたい、とお考えの企業様にはぜひ上手に活用していただきたいと思います。

 

同時活用する際のメリットと課題

  従業員側 企業側
育児時短就業給付金
  • 短時間勤務でも収入が減らない
  • 仕事と育児の両立がしやすくなる
  • 周囲の業務負担を増やすことになるため、周囲の目が気になり短時間勤務制度を利用しにくい
  • 事務手続き量が増える
  • 男性正社員のマンパワーが減ると業績に影響する
  • 業務負担が増える周囲の従業員の理解が得られない 

両立支援助成金(育休中等業務代替支援コース)

  • 気兼ねなく育児休業をとったり、育児短時間勤務ができる
  • 手当支給により業務代替で負担増になる従業員の気持ちに配慮できる
  • 業務の見直しや効率化が図れる
  • 若い世代にとって会社の魅力が増える

これをきっかけに業務の見直しや効率化の取り組みを行い、生産性をアップして組織風土を変え、会社、子育て中の従業員、子育てをしていない従業員、従業員の家族など誰にとってもより良い効果を生み出すため、ぜひ社会保険労務士にご相談ください。

 

また、給付金・助成金に限らず、私も所属する神戸商工会議所所属の士業有志で立ち上げた「こうべ企業の窓口」では、複数士業が事業者の皆様をサポートいたしますので、どのようなことでもお気軽にご相談ください。

 

執筆者ご紹介

社会保険労務士 小河みさき(おがわ・みさき)

企業の切実な悩みである「人材育成問題」の解決のために、コミュニケーションの促進やモチベーションアップの施策など組織風土改革の支援、ブラック企業と呼ばれないための社内規則の整備、産業カウンセラーとしてメンタルヘルスへの取組みをサポートします。

  1. 労務管理コンサル(組織開発支援)
  2. メンタルヘルス対策
  3. 社内規定作成

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