賃料改定に会社が直面したら/不動産鑑定士谷詰岳史

不動産鑑定士 谷詰岳史 (かもめの不動産鑑定株式会社)

 

・急な賃料改定の申し出を受けた

・かなり昔から同じ賃料のままなので、更新時に改定したい

 

1.はじめに

 一般的には、土地の賃料を地代(法律上は地上権を地代、賃借権は借賃や賃料として区 別)、建物の賃料を家賃といいます。紙幅の関係で、土地の賃料である地代について述べ たいと思いますが、考え方は家賃も同様です。

 まず、賃料には、新規賃料(新たに契約を締結する時の賃料)と継続賃料(継続的契約関係にある時の賃料、まさに賃料改定時の賃料のこと)という概念があります。

 賃料交渉時に、「周辺賃料相場が○○円なので、○○円にしてほしい」と言われて、ネ ット検索等でよく提示されてくるのが、まさにこの新規賃料ベースの賃料ではないでしょうか。これは、賃料改定を行う際の継続賃料とは異なる概念です。

 

2.改定賃料の着目点

 では、賃料改定における継続賃料は、どのように考えれば良いのでしょうか。

 最高裁判所の判断基準はこうです。「賃料増減額請求の当否や相当賃料額の判断に当たっては、直近合意時点の賃料をベースに、それ以降の経済情勢の変動等のほか、賃貸借契 約の締結経緯、契約内容等の賃料額決定の要素とした様々な事情を総合的に勘案する。」

 一般の方には難解ですが、現在支払っている賃料を合意した時点である「直近合意時点」から現在にかけての事情変更(税金、土地価格、地代相場等の経済的事情※1、契約内容の変更※2)のほか、契約当初からのお互いの経緯等(諸般の事情※3)や、お互いが何を重視してこの賃料を合意するに至ったか、公平の観点から次の改定賃料を決めましょうということです。 

 

■継続賃料で判断される事情の例(地代・家賃)

 ここで、直近合意時点から現在にかけての経済的事情変更を知るうえで、非常に重要で、かつ、皆さまでも土地単価の推移を確認できる資料を下表にてご紹介します。

 不動産鑑定士が行う公的評価(㎡当たりの土地単価)は、誰でも閲覧することができ、 国や自治体の土地収用や税務等の様々な場面でも参考とされています。

 また、これらの公的評価の推移から概ねの税金(固定資産税等)の推移を知ることができます。相続税路線価には、税務上の借地権割合も記載されており、実務上、所有者と借地人との間での交渉にも役立っています。

 なお、直近合意時点がかなり昔のものでも、図書館に過去の相続税路線価(神戸市は中央図書館)等が閲覧に供されており、誰でもその推移を知ることができます。直近合意時点から土地価格は上昇トレンドなのか下落トレンドなのかを把握することは大切です。

 ご注意して頂きたいのが、賃料は遅行性、粘着性という性質があり、価格と賃料では変動過程が異なるということです(価格の変動ほどに、賃料は動かない)。

 さらに、家賃が分かりやすいですが、事務所や店舗に比べて、住宅の家賃は急激に変動しないですよね。エリアの選好性によっても変動が異なります。こういう視点も、不動産鑑定士の腕の見せ所ではありますね。

 

■公的評価の閲覧(クリックすればサイトで見れます)

相続税の路線価

固定資産税の路線価等

地価公示価格及び地価調査価格 

 

 昨今では、コロナ禍における巣ごもり需要により、物流施設用地をはじめ、阪神間の工業地の需要は強含みで推移しています。このような高まりを背景とした賃料増額交渉の相談も、実務上は増加傾向にあります。

 ここで気を付けて頂きたいのが、あくまで継続賃料は、現状の契約内容を踏まえ、直近合意時点から現在にかけてどのような事情変更があったかということを認識しなければなりません。周辺新規賃料相場の高騰を受けて、これがこのまま現行賃料改定に直結するものではないということです。 

 

3.今までの更新料、承諾料等の支払いは、把握していますか? 

 契約更新、建物の建替え、借地権譲渡時において支払われる更新料、各種承諾料等は、いわゆる権利金同様に、借地権を強化する性格があります。このため、支出時から契約期間満了時までの償却期間に渡り、支払賃料に影響を与えます。

 よって、契約当初から現在にかけて、これらの更新料等の経緯についても事前に整理しておく必要があると言えるでしょう。 

 

■更新料等の目安(個別性により変動あり)

 

4.民事調停という制度はご存じですか?

 最後に、当事者間での協議が困難となった場合の調停制度をご紹介します。

 調停とは、当事者の間に、具体的には賃貸人と賃借人の間に、裁判所(裁判官 1 名と弁 護士、不動産鑑定士等の調停委員 2 名で構成される調停委員会)が入って当事者間の合意 を成立させる手続です。土地や建物の賃料を増減請求する場合は、皆さんが一般的に裁判 で想像される「訴訟」の前に、「調停の申立て」をしなければならないという、調停前置主義(民事調停法第 24 条の 2)が適用されます。調停の申立ての手続は簡単ですので、本 人が行う場合もありますが、話し合いと言っても相手方との交渉ですので、弁護士、司法書士に依頼するケースが多いです。 

 調停手続きは、法廷ではなく、調停室(事務室のような普通の部屋)で行われます。 1~2 ヶ月に 1 度の会合を 3 回程度行い、賃貸人と賃借人の話を交互に聞きます。顔を見 合わせることはないため、直接言いにくい事柄も、調停委員に伝えることができます。

 お互いの言い分を調整しながら、両者の話し合いをまとめ、合意内容は調停調書に記載 され、確定した判決と同じ効力を有します。

 

■調停事件の特徴

 

 

 不動産に関わる問題は、単なる価格や賃料の額だけでなく、法律、税務、会計、建築等々、その背景にある問題は多岐にわたります。このような複合的な問題の解決方法を導くためには、複数の専門士業の知恵が必要となります。

 12 種類もの専門士業集団である、私たち「こうべ企業の窓口」に、コラムを見られている皆さんのベストな解決方法を、ぜひご相談ください。

 また、毎月第 2 木曜日には、「無料個別 zoom 相談会」も行っているので、こちらもご活用ください。 

 

執筆者のご紹介


不動産鑑定士 谷詰岳史(たにづめ・たけし)

 

①小売店で年額賃料総額1億円の減額実績あり。立退き料の算定、新規地代設定も可能。②大型商業施設、工場財団のほかホテル、ゴルフ場、サービス付高齢者住宅等のオペレーショナルアセットの評価実績も豊富。③借地権・底地・隣地併合・分割に伴う評価実績も豊富。どんな物件でも評価いたします。

  1. 地代・家賃の増減額交渉、立退き交渉に伴う評価
  2. 特殊案件の評価
  3. 複雑な権利関係の評価 

かもめの不動産鑑定株式会社

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