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突然の「退職代行」通知、企業はどう動くべきか/弁護士戸田晃輔

「本日付でAさんの退職を代行しております。今後のご連絡は弊社を通じてお願い申し上げます。」——ある日突然、このような文面のメールが退職代行業者から届いた経験はないでしょうか。こうした退職代行サービスを通じた退職の申し出は、ここ数年で増加しており、対応に苦慮される企業からの相談も増えています。直接本人に連絡してよいのか」「有給休暇はどう扱うべきか」「拒否できるのでは」といった悩みで現場が混乱するのも無理はありません。そこで、一度法的観点から企業が知っておくべきポイントを整理したいと思います。

 

 

退職代行サービスとは何か


退職代行サービスとは、労働者本人から依頼を受けた第三者が会社に退職の意思を伝えるサービスです。職場のハラスメントや過重労働により直接申し出ることが困難な労働者の利用が増えており、業者の数も急増しています。ここで大前提として押さえておきたいのは、「退職は労働者の自由意思に基づく権利である」という点です。民法第 627 条に基づき、雇用期間の定めがない場合、労働者はいつでも退職を申し出ることができ、申し出から2週間が経過すれば退職の効力が生じます。会社側がこれを不当に拒否したり、妨害したりすることはできません。なお、契約社員など雇用期間の定めがある場合には、契約内容や期間、やむを得ない事由の有無によって結論が異なるため、別途確認が必要です。

 

 

業者の種類が対応のカギを握る


退職代行業者は、その法的立場によって大きく三種類に分かれます。

第一は「民間企業」が運営するもので、退職意思の「伝達」のみが認められており、交渉行為を行えば弁護士法第72 条が定める非弁行為となります。

第二は「労働組合(ユニオン)」を名乗るもので、労働組合法上の団体交渉として申し入れがなされる場合があります。この場合、組合加入の有無や申入れ内容を確認したうえで、正当な団体交渉申入れであれば、合理的理由なく拒否することはできません。

第三は「弁護士」で、法的代理人として交渉・訴訟を含む全ての対応が可能です。

連絡が届いた際は、まず業者の名称・種類・担当者名・連絡先を記録することが最初の一歩です。民間業者が交渉行為に及んでいると判断される場合は、その事実を記録したうえで、慎重に対応方針を決定してください。

 

 

本人と直接連絡してはいけないのか


退職代行業者から、「本人への直接連絡はご遠慮ください」と求められることがあります。

しかし、法律上、会社が労働者本人と直接連絡することを一律に禁止する規定があるわけではありません。本人の退職意思が真意に基づくものか、退職届の提出先や貸与品の返却方法をどうするかなど、必要な事項を確認すること自体は、会社として正当な対応といえます。

もっとも、直接連絡は必要最小限にとどめるべきです。退職を撤回するよう迫る、出社を強く求める、繰り返し電話をかける、家族に連絡するなどの対応は、後日の紛争を招くおそれがあります。また、本人が精神的不調を訴えている場合、通院中であることが伝えられている場合、弁護士や労働組合が関与している場合には、本人への直接連絡は慎重に行う必要が

あります。連絡を試みても応答がない場合には、業者や代理人を通じた書面対応に切り替えることが賢明です。

いずれの場合も、連絡の日時、手段、内容は必ず記録として残してください。後日のトラブルを防ぐうえで、記録化は極めて重要です。

 

 

有給休暇・賃金・備品返却はどう対応するか


退職代行が入ったからといって、通常の退職手続きと本質は変わりません。退職日の確定、残有給休暇の消化、私物・貸与品の返却方法、離職票・源泉徴収票の送付先などについては、業者経由でも必ず書面で確認を取るようにしてください。有給休暇の消化を請求された場合、原則としてこれを認める必要があります(時季変更権を行使できる余地があっても、退

職日との兼ね合いで事実上行使できないことがほとんどです)。また、退職日が確定した後には、未払い賃金・残業代の精算を速やかに行う義務があります。未払いのまま放置すると、後日請求を受けるリスクがあります。

 

 

非弁行為の見極めが法的リスクを左右する


民間の退職代行業者が「残業代を請求する」「退職金の増額交渉をする」といった行為を行っている場合、弁護士法第 72 条が定める非弁行為に該当する可能性があります。この場合、企業側は民間業者との交渉には応じず、本人の意思を示す書面の提出や、弁護士等の適法な代理人からの連絡を求める対応が考えられます。ただし、業者の行為に問題がある場合でも、

労働者本人の退職意思や有給休暇の請求自体を当然に無視できるわけではありません。業者の権限に関する問題と、本人の退職意思・労働者としての権利の問題は、分けて整理する必要があります。一方、労働組合が団体交渉権に基づいて申し入れてきた場合は、正当な権利行使です。合理的な理由なくこれを拒否すると不当労働行為(労働組合法第 7 条)となりますので、注意が必要です。業者の種類の見極めは、初動対応において最も重要な確認事項の一つです。

 

 

事前の備えこそが最大の対策


退職代行への対応で最も重要なのは「事前の備え」です。就業規則に退職手続きを明確に規定しておくこと、気軽に相談できる窓口を整備すること、そして職場のハラスメントや過重労働の問題を早期に解消しておくことが、根本的な対策となります。「退職代行を使わざるを得ない」という状況を生まないことが、最良のリスク管理です。それでも退職代行の連絡が届いた場合は、①業者の種類と権限の確認、②連絡内容の記録、③退職日・手続きの書面確認、という三つのステップを冷静に踏むことで、法的トラブルを最小化することにつながります。慌てて誤った対応をとることで、後に労務トラブルや訴訟リスクに発展するケースも少なくありません。いざという時に備え、日頃から適切な体制を整えておくことが、経営リスクへの最善の備えとなります。

 

私も所属する神戸商工会議所所属の士業有志で立ち上げた「こうべ企業の窓口」では、複数士業が事業者の皆様をサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。

執筆者ご紹介


弁護士 戸田 晃輔

当事務所は、神戸に加えて、東京、福岡、熊本、鹿児島と複数のオフィスを有しております。そして、各拠点において、多くの企業のお客様から多くのご相談をいただいており、使用者側の弁護士として日々活動をしています。各拠点において培ったノウハウや経験を神戸のお客様へ提供できると考えています。ぜひ、法務部のアウトソーシングをするといった感覚で当事務所を活用していただければと思います。

 

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