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あなたの会社を救うヒーローがいる!?ヒーロー株で「もしも」に備えよう/司法書士島川万里佳

私は司法書士・家族信託専門士として神戸市北区で活動させていただいております。

今回のコラムでは、属人的株式の一種である「ヒーロー株」を利用した会社の凍結(デッドロック)対策についてご紹介させていただきます。

1. 支配株主の認知症等の対策の重要性


中小企業を経営されている皆さまは、議決権の過半数を有する株主(以下、「支配株主」)が病気や事故、あるいは認知症等により判断能力を喪失してしまった場合に備えて、万全の対策をされてますでしょうか?

支配株主が判断能力を喪失すると、株主総会を開催できず会社の重要事項が決定できなくなりますので、会社が実質的な凍結状態(デッドロック)に陥ってしまいます。

会社の機能停止を防ぐためにも、支配株主の生前対策は非常に重要です。

2.ヒーロー株で会社の凍結を回避


この会社の凍結を回避するのに役立つのが、ヒーロー株です。

株式会社は原則、株主をその保有する株式数と内容に応じて平等に取り扱わなければなりません。しかし、譲渡制限株式を発行する株式会社は定款に定めることにより①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産の分配を受ける権利、③株主総会の議決権の3つの事項について、例外的に株主ごとに異なる取扱いを認めることができます。

このような株主ごとに異なる取扱いを行う株式を「属人的株式」と呼びますが、この仕組みを活かし、定款に以下のような定めを設けます。

 (株主総会における議決権について株主ごとに異なる定め)

第〇条 株主 A に以下の事由が生じている間に限り、株主 A の保有する株式1株の議決権は、0個とする。

一  長谷川式認知症スケールにおいて、20点以下の評価を受けたとき

二  事故や病気により、後見相当との医師の診断を受けたとき

三  その他議決権を行使することのできない重大な事由が生じたとき

2 株主 A に前項の事由が生じている間に限り、株主 B の保有する株式1株の議決権の個数は5個とする。

(前提条件:支配株主 A200株、株主 B50株、株主 C50株)

(※本定款の記載はあくまでも一例です。詳細はお問い合わせください。)

前提条件より株主 B は50個の議決権を持っていますが、定款に定めた事項が発生したときには1株につき5個の議決権を持つことになり、一時的に合計250個の議決権を持つことになります。このように定款にあらかじめ定めておくことで、いざというときに信頼する他の株主に会社の運営を任せることができるのです。

ピンチのときに会社を救ってくれるヒーローのような役割を果たしてくれることから、このような属人的株式は俗にヒーロー株と呼ばれています。

なお、議決権数の増加は定款に定めている事項が発生している間に限りますので、支配株主が議決権を行使できる状態に回復した場合には、ヒーロー株の議決権数は元に戻ります。

3.ヒーロー株の導入方法とその注意点


株主ごとに異なる取扱いを認める属人的株式(ヒーロー株含む)は、譲渡制限株式を発行する株式会社のみが定款に定めることにより実現できます。また、属人的株式は登記事項ではないので種類株式と異なり会社の登記簿には記載されません。

登記も要らないので比較的導入しやすいと言えますが、このような属人的株式の定めを定款に設けるためには、株主総会特別決議よりもさらに厳しい要件である株主総会特殊決議を要します。

 【株主総会特殊決議の要件】

 総株主の半数(頭数)以上、かつ総株主の議決権の4分の3以上

 

また、ケースによって他の株主の権利を害する恐れがあることから、過去には特殊決議を経ているにもかかわらず、属人的株式の定めについて無効とされた判例もあります。 

【東京地方裁判所立川支部判決 平成 25 年 9 月 25 日判決 平成 24 年(ワ)第 2633 号】

……(省略)……属人的定めの制度についても株主平等原則の趣旨による規制が及ぶと解するのが相当であり、同制度を利用して行う定款変更が、具体的な強行規定に形式的に違反する場合はもとより、差別的取扱いが合理的な理由に基づかず、その目的において正当性を欠いているような場合や、特定の株主の基本的な権利を実質的に奪うものであるなど、当該株主に対する差別的取扱いが手段の必要性や相当性を欠くような場合には、そのような定款変更をする旨の株主総会決議は、株主平等原則の趣旨に違反するものとして無効になるというべきである。

本判例は、経営株主と敵対する株主の議決権と剰余金の配当を受ける権利を100分の1まで減少させる定款の定めの是非を問うたものです。

判例の結論は、属人的株式の定めは「株主平等の原則」の例外として会社法で認められているものの、どんな差別的な取り扱いも許されるというわけではなく、合理的な理由に基づかないものや必要性を欠くような定めは無効というものでした。

極端な事例ではありますが、株主間での後日の争いを防ぐためにも、株主総会において可能な限り総株主の理解と同意を得られるよう説明を尽くすことが大切です。

なお、あくまでも私個人としての見解ですが、本コラムで紹介するヒーロー株は支配株主の判断能力の喪失という不測の事態に備えるためのものですので、合理的かつ必要性のあるものと考えます。

 

 

4.その他の事業承継対策との比較-「民事信託」と「ヒーロー株」どちらが良いか?


その他の有効な会社の凍結対策として「民事信託」という選択肢もあります。

民事信託とは、個人間の契約(信託契約)により、財産の管理処分権限を契約の相手方に託す制度のことです。支配株主が信頼する個人との間で株式を託す旨の信託契約を結んでおけば、たとえ支配株主が判断能力を喪失したとしても、契約の相手方に会社の運営を任せることが可能です。

 

結果だけを見るとヒーロー株を導入した場合と大差ないように見えますが、ヒーロー株は株式の議決権のみを対象とした会社の凍結対策であるのに対し、民事信託は個人の財産全般を対象とした生前対策であるという点で大きく異なります。

例えば、民事信託では株式以外にも個人の金銭や有価証券、不動産などの管理を契約の相手方に任せることも可能です(信託する財産によって託す相手を変えたい場合は、別個の信託契約が必要です)。

また、あらかじめ契約の中で、信託終了後に財産を受け継ぐ人を定めておく必要がありますので、民事信託は契約であると同時に一部遺言のような役割も果たしてくれます。

 

これらの点から、会社の凍結対策だけでなく個人の財産に関する包括的な生前対策を行いたいのであれば、ヒーロー株よりも民事信託の方が圧倒的に優れていると言えるでしょう。

  民事信託 属人的株式(ヒーロー株)
根拠法   信託法 会社法
対象財産 個人の財産全般 株式の議決権
方法 信託契約の締結

定款に定める

※譲渡制限株式を発行する会社のみ可能

要件 個人間の合意 株主総会特殊決議
コスト 比較的高い 比較的低い

しかし、一方で、信託契約書を作成するには一定の時間とコストがかかることに注意を要します。

 

信託契約の条文内容は多岐に渡るため、専門家に依頼したとしても契約書の文案作成か ら公正証書化までに2~3か月程度の時間がかかることの覚悟が必要です。また、不動産を信託する場合は契約書作成費用のほか、登記のための登録免許税もかかってきます。 時間もコストもかかるとなると、例えば「高齢の支配株主が今にも認知症になってしま いそうであるため、急ぎ株式の議決権について対策を行いたい…」というような状況の場 合、一から民事信託手続を進めるのはご本人の精神的にも体力的にもなかなか負担となり ます。また、手続を進めている最中に「もしも」が起こってしまっては元も子もございま せん。 ケースバイケースですが、株式についてのみ対策を行うのであれば、取り急ぎ、ヒーロ ー株を導入するというのも一つの有効な手段です。 

5.終わりに


今回は属人的株式の一種であるヒーロー株を利用した会社の凍結(デッドロック)対策についてご紹介させていただきました。

民事信託などにより万全に対策できているに越したことはありませんが、信託よりも比較的低コストかつ簡便に導入できる点で、以下のような場合にはヒーロー株が役立つと考えます。

【こんな場合におすすめ・ヒーロー株の導入】
  • 信託手続は時間も費用もかかるので、応急処置的に議決権対策を行いたい。
  • 後継者は決まっていないが、いざというときに議決権を任せられる株主がいる。
  • 後継者は決まっているが、贈与税等の問題から株式を生前に譲渡することは難しい。

しかしながら、ヒーロー株単体を導入しただけでは万全な事業承継対策を行ったとは言えません。後継者が決まっているのであれば、将来の相続に備えて遺言書を作成しておくことも必要ですし、あるいは相続税対策の一環として生前に株式を譲渡しておくという場合もあるでしょう。

ヒーロー株だけでなく、状況に合わせて他の制度を利用または併用するにより、より安心・安全な事業承継対策の実現が可能となります。

 

私の所属する「こうべ企業の窓口」は、複数士業による多角的な視点から、個々の会社さまに合わせたベストな事業承継対策をご提案・サポートさせて頂きます。事業承継対策で迷ったときには、お気軽にお問い合わせください。

 

 

執筆者のご紹介


司法書士 島川万里佳(しまかわ・まりか)

不動産登記業務を中心に、相続や終活サポート(家族信託等)、商業登記(法人設立等)など、幅広い分野の司法書士業務を取り扱っております。お客様にとって、相談しやすい雰囲気づくりと、わかりやすい説明を心掛けています。お気軽にご相談ください。

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