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請求代金を払ったのに税務署にも税金を払うの?!/税理士豊見知雄

個人事業主の方に仕事をお願いして受け取った請求書に“源泉徴収税額”という記載があり、不思議に思った経営者の方もいるかもしれません。このような請求書を受け取った場合には、記載された源泉徴収税額を差し引いて請求書の発行者に代金を支払い、源泉徴収税額は税務署に納付しなければなりません。

所得税は、各自が自分でその年の所得を計算して税務署へ申告して納付する“申告納税制度”が前提となっていますが、一部の所得については上記のような仕組みの“源泉徴収制度”が採られています。

 

1.源泉徴収の対象

源泉徴収の対象となる主な所得は次のとおりです。

  • ① 利子や配当等
  • ② 給与や退職金等
  • ③ 公的年金等
  • ④ 報酬・料金等 など

源泉徴収される所得税はあくまで仮の金額です。④の報酬・料金等の支払いを受ける個人事業主にとっては所得税の前払い的な性格のものです。よって、確定申告の際に計算したその年の所得税から差し引くことによって精算します。

ちなみに②のうち給与については、2 か所以上から給与をもらっているとか医療費がかかったとかで確定申告する方以外の多くの方は、勤務先で年末調整してもらうことにより毎月の給与から源泉徴収された所得税の精算が完了します。

 

2.源泉徴収義務者

源泉徴収の対象となる給与や報酬・料金等を支払う側の法人や個人は“源泉徴収義務者”となります。つまり、該当する所得を支払う場合には所得税を源泉徴収して税務署に納付する義務があるのです。よって、源泉徴収すべき所得税を納付しなかったり、納付期限よりも納付が遅れたりした場合には、不納付加算税や延滞税といったペナルティが課せられます。

 

3.対象となる報酬・料金等

報酬・料金等について源泉徴収しなければならないその対象は、細かく具体的に所得税法で定められています。いくつか具体例を挙げると次のようなものです。

  • ① 原稿、写真、デザイン、講演等の報酬・料金
  • ② 弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・弁理士・中小企業診断士・司法書士・土地家屋調査士・不動産鑑定士・建築士等の報酬・料金(ちなみに、行政書士・ファイナンシャルプランナー(企業に対する経営コンサルタント業務等を除く)の報酬・料金や、弁護士法人・税理士法人など法人に対する報酬・料金については源泉徴収の必要はありません)
  • ③ モデル、外交員等の報酬・料金
  • ④ 映画・演劇・テレビジョン放送等の出演・演出・企画の報酬・料金 など

上記以外にもいろいろと対象になるものはありますが、これらは限定列挙となります。つまり、対象として列挙されていないものについては源泉徴収する必要はありません。

 

4.カメラマンに支払う報酬

ただ、中には源泉徴収するべきかどうか迷うものもあります。その一つが個人事業主であるカメラマンに支払う報酬です。

列挙されている中で該当するものに「写真の報酬」として、次のとおり記載されています。

 

「雑誌、広告その他の印刷物に掲載するための写真の報酬・料金」

(所得税法 204 条第 1 項第 1 号)

 

では、会社のホームページ用の写真を撮ってもらった場合はどうでしょうか。

あくまで“・・・印刷物に掲載するための写真・・・”と記載されていますので、ホームページは印刷物ではないということで、ひとまず源泉徴収すべき対象から外れることになります。

 

あるいは、会社のPR用に動画を撮影してもらい、インターネット上の動画共有サービスへの投稿までをお願いした場合はどうでしょうか。

これに該当しそうなものとしては、次のとおり記載されています。

 

「映画、演劇、音楽、音曲、舞踊、講談、落語、浪曲、漫談、漫才、腹話術、歌唱、奇術、曲芸や物まね又はラジオ放送やテレビジョン放送の出演や演出又は企画の報酬・料金」(所得税法 204 条第 1 項第 5 号)

 

会社のPR用動画なのでいわゆる“映画”ではないですし、インターネット上への投稿はラジオやテレビでもありません。

よって、会社のPR用動画の演出や企画であれば源泉徴収すべき対象から外れるというのが、とりあえずの結論になるのかもしれません。

5.実務上の対応

しかし、上記の所得税法の規定の文言を見ていただいても分かるように、かなり古めかしい表現であり現代のビジネス社会にはそぐわない内容となってしまっています。

もちろん所得税法の規定そのままに実務上も対応するのが原則ですが、判断に迷う場合は少し拡大解釈して源泉徴収の対象としておくのも一つの対応策です。

(判断に迷って税務署に問い合わせたら、税務署によって回答が違った・・・というようなこともあるようです)

 

源泉徴収した所得税は確定申告で最終的に精算されますので、源泉徴収される側の個人事業主の方にとって損得はありませんが、一時的に手取りが減ることになります。また、源泉徴収していなかった場合にペナルティがあるのは、報酬・料金等の支払い側です。

 

よって、後日トラブルにならないように、受け取った請求書に“源泉徴収税額”という記載がなくても源泉徴収の対象となりそうなものは内容を確認したうえで、仕事をお願いした個人事業主の方と源泉徴収するべきかどうかについて事前に打合せしておくことをお勧めします。

 

気になる方は、私も所属する神戸商工会議所所属の士業有志で立ち上げております「こうべ企業の窓口」にお問合せ下さい。

複数の士業が連携し、全力でサポートいたします。

どうぞお気軽にご相談ください。

 

執筆者ご紹介

税理士 豊見知雄(とよみ・ともお)

 

 経営支援業務(いわゆるMAS業務)に力を入れております。中小企業の社長は日々の業務に追われ、しっかり“経営”に向き合う時間がなかなか取れないことも多々あります。そんな社長にいつも頼られる存在でありたいと思っております。

 

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  2. 節税対策

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