
顧問先の経営者から雇用している従業員の家族に関することで、以下のような遺族年金の相談がありました。
「元々は長年連れ添った円満な夫婦として結婚生活を行っていたが、夫が経営していた会社が倒産し多額の借金を背負うことになり、借金の督促等、妻に迷惑をかけることを避けるため、形式的に離婚しました。そして、元妻は元夫から少し離れたアパートに住むようにして、元夫の家に、週 3~4 日通う形で生活を送っていました。借金を全て返済し終えたら、再婚する予定でしたが、元夫が病気で亡くなってしまいました。このような場合、元妻は遺族年金を受給することはできるのでしょうか?」
「事実婚関係にある者+生計維持関係にあった者」であれば、入籍していない者でも遺族年金を受給できる配偶者に該当します。
では、要件となる「事実婚関係にある者」と「生計維持関係にあった者」について解説していきます。
1. 事実婚関係にある者
事実上婚姻関係と同様の事情にあった者と認められるには、以下の 2 つの要件を満たす必要があります。
- 当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係を成立させようとする合意があること。
- 当事者間に、社会通念上、夫婦の共同生活と認められる事実関係が存在すること。
つまり、戸籍上の婚姻関係ではなかったが、共に婚姻する意思を持って、夫婦としての共同生活を営んでいたという状況である必要があります。
2. 生計維持関係にある者
生計を維持されていたと認められるには、事実婚(内縁)の夫の死亡時において、事実婚(内縁)の妻が、下記 2 つの要件を満たす必要があります。
⑴ 収入要件
収入に関する認定に当たっては、次のいずれかに該当すればOKです。
- ア 前年の収入が年額 850 万円未満であること。
- イ 前年の所得が 655.5 万円未満であること。
- ウ 一時的な所得があるときは、これを除いた後、前記ア又はイに該当すること。
- エ 前記のア、イ又はウに該当しないが、定年退職等の事情により近い将来(概ね 5 年以内)収入が年額 850 万円未満又は所得が 655.5 万円未満になると認められること。
⑵ 生計同一要件
原則としては、両者が同居している必要がありますが、そうはいっても同居を不可能とするやむを得ない理由(単身赴任、就学、病気療養等)がある場合もあるでしょう。
そのようなケースの場合は、内縁の夫との間に定期的な音信や訪問があり、また内縁の夫から経済的援助があったという事実が必要です。生計同一に関する認定にあたっては、次のいずれかに該当すればOKです。
- ア 住民票上同一世帯に属しているとき
- イ 住民票上世帯を別にしているが、住所が住民票上同一であるとき
- ウ 住所が住民票上別々であるが、次のいずれかに該当するとき
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- (1)現に起居を共にし、かつ消費生活上の家計を 1 つにしていると認められるとき
- (2)やむを得ない事情により住所が別々であるが、生活費、療養費等の経済的援助が行われていることや、定期的に音信、訪問が行われていること
このうち、別居で住民票上の住所が別である場合においては、上記ウ(2)に該当することを証明する必要があります。
できれば、生活費は振込みで送金するといった形として残るようにしておいた方がよいでしょう。
別居していた妻が遺族年金を受給できるかどうかは、やむを得ない事情というよりも、生計同一関係を証明できる資料の有無が鍵となります。
内縁関係を証明する資料
内縁関係を証明する資料としては、
- 健康保険の被扶養者になっている場合 → 健康保険被保険者証の写し
- 給与計算上、扶養手当の対象になっている場合 → 給与簿、賃金台帳の写し
- 葬儀の喪主になっている場合 → 葬儀を主催したことを証明する書類
- その他内縁関係の事実を証明する書類
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- 連名の郵便物(年賀状・暑中見舞い)、公共料金の領収書、生命保険の保険証、
- 賃貸借契約書の写し、二人での旅行や親族の結婚式に列席した際の写真等、
二人の関係を証明できそうな資料は全て揃えて提出しましょう。
実務上は、上記の資料と共に、「事実婚関係及び生計同一関係に関する申立書」の提出と、第三者証明(三親等内の親族以外の者)の提出を求められます。
まとめ
「内縁の妻は遺族年金を請求できる」ということですが、残念ながら誰しもが必ず受給できるわけではありません。
内縁関係(事実婚関係)であれば、「遺族年金をもらう権利がある」と思っている方もいますが、そうではありません。
正しくは、「請求できるが、受給できるかどうかは審査によります」では、何を審査する必要があるのか?それは、
- ・請求者が、内縁関係(事実婚関係)であるといえるか
- ・生計同一関係であるといえるか
ということについてです。
事実婚関係+生計維持関係を立証し、審査で認定されれば遺族年金を受給できます。
しかし、それを証明するためのハードルは高いです。
ただ単に、所定の申立書に記入して提出するだけで立証するのが難しければ、自分で申立書を作成し、第三者による証明書などの資料も準備して万全の形で提出するようにしましょう。
執筆者ご紹介

社会保険労務士 西尾隆(にしお・たかし)
うつ病、がん、人工透析、糖尿病、脳梗塞、心疾患などあらゆる病気が障害年金の対象です。障害年金を活用することで、がんなどの病気で働けない従業員への就労支援対策にもなります。病気による離職で優秀な人財を流出させない職場環境の構築といった就労支援対策を提案いたします。
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