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私生活上の傷病を抱える労働者への対応/弁護士中島健治

1.はじめに

特に正社員(期間を定めず採用した社員)については、雇用期間が長期にわたることが多いため、その期間中に、私生活上の傷病により就労不能な状態になることもあり得ます。そのようなときに、使用者としてはどのように対応したら良いのか、また、私生活上の傷病により休んでいる労働者が回復したとして、復帰を求めてきた場合にはどのように対応したら良いのか、今回はこれらについて、検討したいと思います。

2.私傷病により労働者が就業不能となった場合

⑴就業不能な間の賃金支払の要否

 労働者が、私傷病(業務外の病気、ケガ等)により、就労不能となった場合、労働者が労務の提供(債務の本旨に従った履行の提供)を出来ていない以上、使用者は給与の支払義務を免れるのが原則です(ノーワーク・ノーペイの原則)。ただし、労働者が希望すれば、自ら保有する年次有給休暇の日数の範囲内で年次有給休暇を取得して療養することは可能であり、その場合、使用者は年次有給休暇取得期間に対する給与を支払う必要があります。

 

⑵解雇の可否 

 多くの場合、就業規則において、「身体の障害により業務に堪えられない場合」が普通解雇事由として規定されていますから、長期にわたり就労不能な状態が続く場合、解雇も検討対象となり得ます。しかし、形式的に普通解雇事由に該当するように思える場合であっても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、解雇は認められません(解雇権濫用法理 労働契約法第16条)。   

 ここで、私傷病による解雇が認められるかどうかは、雇用契約の内容(職種や業務内容等)や当該労働者の健康状態(回復の見込みや業務への影響)等により判断されることとなり、具体的事情に即した慎重な検討が必要となりますので、弁護士、社労士等の専門家への相談を検討して下さい。

3.私傷病休職について

⑴休職制度とは

 休職制度は、法律上定められた制度ではなく、就業規則等により定められる制度であり、労働者が私傷病等により、就労不可能もしくは不適当となった場合に、一定の期間労働義務を免除する(休職させる)制度です。私傷病による休職(私傷病休職)の場合、休職期間満了までの間に私傷病が治癒し、職場復帰(復職)ができなければ、自然退職もしくは解雇とする旨定められているのが一般的であり、一定期間解雇を猶予する性格を持っています。 休職の期間をどの程度の長さで定めるか、休職中の給与を支払うか否かなどは、就業規則等によって定めることとなります。    このような解雇猶予という私傷病休職制度の性質から、就業規則上、私傷病休職制度が定められているにもかかわらず、これを行わずに直ちに解雇したような場合、解雇権濫用として解雇が無効と判断される可能性が高くなります。 

 

⑵休職からの復職   

 一方、私傷病により休職していた労働者が、回復したと主張して職場復帰(復職)を求めて来たときにも、問題が生じ得ます。    労働者が真実回復しているかどうか(従前の職務を通常程度遂行可能な健康状態にあるかどうか)を判断するために、使用者としては、基本的には、主治医の診断書の提出を求め、その内容を検討することとなります。しかしながら、主治医は当該労働者が従事している職務の内容を正しく理解できていないまま復職可能との判断をしている場合もあります(例えば、当該労働者がどの程度肉体的に負荷のかかる業務を行っているかによって、復職の可否の判断は変わってくるはずです。)から、それのみで直ちに復職させて良いかどうかは検討が必要となります。したがいまして、使用者としては、必要に応じて、当該労働者と産業医との面談等を行うこと等も検討することとなります。   

 その結果、主治医が復職可能と判断しているにもかかわらず、産業医が復職不可と判断する場合など、主治医と産業医の意見が対立することもあり得ます。このような場合、使用者としては、一般的には産業医の判断を重視することになるかと思われますが、紛争になりやすい場面であり、具体的事情に応じた慎重な判断が必要となる問題ですので、弁護士、社労士等の専門家への相談をしていただくべきかと思われます。

4.まとめ

以上のとおり、私傷病により就労不能な状態になった労働者への対応については種々の問題が生じ得ますので、適宜弁護士、社労士等へのご相談をご検討下さい。また、本稿でご説明した休職制度を導入したり、スムーズに産業医との面談を労働者に命じたりするためには、事前に就業規則において適切な定めをしておく必要があります。 私も所属する「こうべ企業の窓口」には弁護士、社労士を含めた多数の士業が所属しておりますので、このようなトラブルが起きる前の日常的なご相談や、万一トラブルとなってしまった場合のご相談など、柔軟に対応が可能です。どうぞご相談下さい。 

執筆者のご紹介

弁護士 中島健治(なかじま・けんじ) 

中小企業や個人事業主が抱える日常的な法律問題処理(債権回収、契約書作成等)を多く手掛けています。従業員との間のトラブル(労働事件)も多く取り扱っています。社長や従業員の方個人に関する事件(交通事故、相続、離婚等)も対応可能です。

 

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