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改めて考える未払い残業代請求のリスク/弁護士戸田晃輔

1.はじめに

近年、働き方改革などにより時間外労働を抑制する方向に社会は動いています。

しかし、 時間外労働が不可避的に発生することも少なくないと考えられ、適切に残業代の支払い をしていない場合、労働者から残業代請求を受けることもあります。そこで、今回は残 業代が未払いとなっている場合のリスクを改めて整理したいと思います。

2.残業代未払いの類型

労働者が企業に対して未払残業代の請求をする場合、その請求はいくつかの類型に分類 できます。

まず、シンプルに時間外労働に対する残業代を支払っていないというもので す。労働基準法 32 条が定める法定労働時間「1 日 8 時間、週 40 時間」を超えて労働者 が働いた場合、当該労働時間に応じた時間給に加えて、通常の 1.25 倍から 1.5 倍の割 増賃金を支払わなければなりません。

この割増賃金は、深夜労働や休日労働の場合も発 生します。

このパターンの事案以外にも、①労働時間に争いがある、②特定の時間が労働時間に該 当するかに争いがある又は③残業代の支払いが必要な場合であるかに争いがあるか(固 定残業代制等を理由にすでに支払い済みである)といった分類ができます。

3.残業代請求を受けた場合のリスク

(1)以上のように残業代の支払い請求にもいくつかの類型が存在します。その上で、 残業代請求を受けた場合のリスクを考えたと思います。 まず、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、残業代の請求権に関する時効が 2 年 から 3 年に延長されています。

なお、3 年に延長されたのは、いわゆる給与・手当・残 業代に関するものであり、退職金の時効は 5 年になっています。 そのため、労働者が請求してくる残業代の金額も増え、1000 万円以上の請求をして くることもあります。

その上、残業代請求は労働者一人だけでなく、複数名が同時に請 求してくることもあります。

 

また、裁判で残業代を請求されると、場合によっては、付加金という名目で未払いの 残業代に追加で金銭を支払う必要があります。企業による賃金の未払いが付加金による 制裁が必要なほど悪質な場合に認められます。その結果、企業は未払い賃金だけでなく、付加金をプラスして支払いをしなければならなくなります。

 

さらに、未払い残業代がある場合、割増賃金が支払うべき日の翌日を起算日として遅 延損害金をあわせて支払わなければなりません。企業が労働者から未払残業代の請求を 受けるときには、時効にかかるまでの過去の分までさかのぼって請求を受けることとな ります。 そして、遅延損害金は、各賃金の支払日の翌日から年利 3%(ただし、2020 年 4 月よ り前に発生した賃金は年利 5%)となります。

また、賃金の支払いを受けないまま退職 した場合、賃金の支払の確保等に関する法律 6 条により、退職日の翌日から 14.6%の 遅延利息が発生します。残業代を 2 年分(2020 年 4 月以降は 3 年)さかのぼって請求を 受けた場合、未払い賃金の元本のみで数百万円など高額になるケースがほとんどです。 これに遅延損害金が発生するとなると、遅延損害金の金額も高額となる可能性がありま す。

このように、残業代請求を受けると、未払いとなっている残業代に加えて付加金及び 遅延損害金なども同時に請求されてしまいます。そのため、未払い残業代が存在すると、 企業の存続が危うくなるほどの高額な支払いをしなければならないリスクがあるとい えます。

 

(2)その他、そもそも残業代を支払っていない、割増分を支払っていない、このよう な場合、労働基準法違反となります。 そして、残業代未払いについては、同法 119 条が「6 か月以下の懲役または 30 万円 以下の罰金」という罰則を定めています。罰則の対象者は代表者に限られません。

また、同法 121 条により企業そのものも刑事責任を問われ得る立場となります。刑事 罰が企業に科せられる場合、罰金刑が科せられることになります。罰金そのものの金額 は高くないですが、企業の社会的信用などの低下により企業経営に深刻な影響を受ける リスクがあります。

4.まとめ

以上のとおり、残業代請求を受けた場合には高額な金銭の支払だけでなく、刑事罰、 ひいては会社の社会的信用の低下などのリスクが存在します。そのため、未払い残業代 のトラブルは企業の存続に関わる大きな問題といえます。

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執筆者ご紹介

弁護士 戸田 晃輔

 

当事務所は、神戸に加えて、東京、福岡、熊本、鹿児島と複数のオフィスを有しております。そして、各拠点において、多くの企業のお客様から多くのご相談をいただいており、使用者側の弁護士として日々活動をしています。各拠点において培ったノウハウや経験を神戸のお客様へ提供できると考えています。ぜひ、法務部のアウトソーシングをするといった感覚で当事務所を活用していただければと思います。

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