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もう一歩踏み込んで考える秘密保持契約/弁護士安井健馬

御社では、何となく「秘密保持契約書」に署名・押印していませんか?

「秘密保持契約」とは、企業が保有する情報を他者に開示する場合に、他者が開示を受ける情報の秘密保持を約束する契約をいいます。英語で「Non-disclosure Agreement」ということから、「NDA」と略して呼ばれることもあります。この記事では、秘密保持契約のメリットと秘密情報の定義について考えてみます。

1 「秘密保持契約」を締結するメリットは?

秘密保持契約を締結するメリットとしては、一般的に次のようなものが挙げられます。 

 

①目的外の情報利用の防止

ライバル企業との業務提携のため秘密情報を開示していたのに、結局、交渉決裂となることがあります。秘密保持契約を締結していないと、ライバル企業の手許に残った秘密情報が他の目的で利用される危険があります。

②秘密保持違反に対する責任追及

相手方が秘密保持の約束を破った場合、不正競争防止法による保護(下記③)を受けられなくても、秘密保持契約の条項に当てはめることで、契約違反(債務不履行)を理由に損害賠償を求めたり、行為の差止めを求めることができます。 

③「不正競争防止法」による保護

秘密保持契約が不正競争防止法の「営業秘密」の要件である「秘密管理性」を補強します。

「営業秘密」の漏えいに関して、損害額の立証で有利になったり、差止めを利用できたりします。「営業秘密侵害罪」で告訴し刑事上の保護を受けられます。

2 「秘密情報」の範囲は適切ですか?

①開示当事者に有利な定義

情報を開示する当事者としては、秘密情報の範囲が広い方が有利なので、「開示した一切の情報」と定義するのがよいでしょう。もっとも、何を相手方に開示したか分からなくなると意味がないので、開示情報を特定する工夫が必要です。

②受領当事者に有利な定義

情報の受け取る当事者としては、秘密情報の範囲が狭いほうが有利です。開示方法に従い、次のような定義を追記するのがよいでしょう。

(a)紙媒体 →「㊙」や「confidential」等の秘密である旨を明示すること

(b)データ →パスワードを付すること

(c)口頭提供→事後的に書面で特定すること

③個人情報は秘密情報なのか?

ところで、秘密情報の定義に個人情報を含める例をしばしば見かけますが、不適切です。

なぜなら、個人情報の取り扱いを第三者に委託する場合、個人情報保護法により情報管理の義務が定められているからです。別途個人情報取扱いに関する合意書を締結するべきでしょう。

3 まとめ

儀式のように取り交わされることもある「秘密保持契約」ですが、この記事で取り上げた定義のほかにも例外規定、損害賠償条項、差止条項など考えるべきことは多岐にわたります。

取引の序盤だからこそ、戦略的な交渉が必要になります。

また、技術的情報の取り扱いは弁理士に、お金の情報の取り扱いは税理士・公認会計士に、秘密管理の体制作りは社会保険労務士になどなど、様々な専門家が助言するべき場面もあります。

「秘密保持契約」と聞けば複数専門家が所属する「こうべ企業の窓口」にご相談ください。

主たる参考文献

森本大介ら編著『秘密保持契約の実務(第2版)』(2019年・中央経済社)

 

執筆者ご紹介

弁護士 安井健馬

紛争には、法的問題にとどまらず、様々な感情・気持ちの問題が含まれていると思います。私は、それぞれの紛争について、ご相談者が抱える法的問題や悩みと向き合い、最善の解決策を模索して、十分な満足を提供したいと思っております。

ご相談者に満足して頂けるよう、全力を尽くして取り組んで参ります。

 

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