2023年4月から中小企業も対象。月60時間超の時間外労働の割増賃金率50%以上に/社会保険労務士小河みさき

働き方改革関連法が施行されて3年が経過し、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の中小企業に対する猶予措置も今年度で終了、いよいよ来年4月1日からは大企業と同様の割増賃金率(50%以上)が適用されます。 

1.時間外労働と割増賃金率

2023年4月1日からは、割増賃金率は下表の率以上としなければなりません。

中小企業の範囲についてはこちらhttps://www.mhlw.go.jp/content/000930914.pdf

 

時間外労働とは、1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超える労働をいいます。

では、時間外労働時間数のカウントについて、具体的に次の例で見てみましょう。

 

この例の場合、日曜日の労働は法定休日労働としてカウントしますので、時間外労働時間数には含めません。1日から23日までの時間外労働時間数の合計が60時間となるため、24日から27日、29日から31日に行った時間外労働時間数の合計10時間が月間60時間超となり割増賃金率50以上の対象です。

 

また、完全週休2日制である場合の法定休日以外の休日に行った労働は、1日8時間を超えるか1週の労働時間の合計が40時間を超える部分は、休日労働ではなく時間外労働としてカウントすることになりますのでご注意ください。 

2.猶予措置終了に向けての対応策

長時間労働対策については、すでに取り組んでおられる企業も多いと思いますが、新型コロナウィルス感染症の影響や様々な要因により、猶予措置の間は・・・・と対応を先延ばしにされてこられた企業は、いよいよ対策を講じていただく必要があります。

 

割増率引き上げへの対応に必要な手順としては、

(1)現状を正しく把握する。

①労働時間を正しく区分して把握する。

 □時間外労働の法定内・法定外を区分する。

 □会社休日の労働の法定休日労働・法定外休日労働(=時間外労働かどうか)を区分する。

 

②60時間超の時間外労働の有無を確認する。

 □ある場合に、臨時突発的か、恒常的か。 

 □時間外労働時間数に個人のかたよりがあるか。

(2)労働時間を短くするための工夫、措置を検討し実施する。

 □工程管理を見直す。 

 □業務シェアで業務量のかたよりを見直す。

 □手作業から機械化を図る。

 □自動化により工程数を減らす。

 □ツールを活用して業務の見える化を図る。

 □業務マニュアルを作成して、不必要な作業を省く。

 □残業を事前申告制にして従業員の意識改革を図る。

 

等々、業種や業態に応じて、様々な取り組みが考えられます。ここでのポイントは、現場の意見を十分に反映させることです。自分事にならなければ、どんな施策を講じても効果が表れないということが起こります。思い切ってこれまでの習慣を一から見直すという視点で取り組んでいただきたいと考えます。

(3)割増賃金のシミュレーションを行う。

年に何度か臨時突発的に業務が輻輳し、月60時間超時間外労働をするような繁忙時期が見込まれるというような場合は、2023年4月1日以降、どの程度人件費が増加するのかあらかじめ掴んでおくということも大切です。2020年4月1日から未払い残業代への請求権の時効が3年に延長されています。25%から50%への引き上げ後は、対象となる人数によっては未払い賃金遡及払いの金額も大きくなります。

3.生産性向上に向けての取り組み

長時間労働規制の本来の目的は従業員の心身の健康維持や、企業の生産性向上です。

 

生産性とは、インプット(投入量)に対して、どのくらいアウトプット(産出量)できたかというということです。企業の事業内容によって、インプット、アウトプットの具体的な項目は異なりますが、そもそも人件費を抑制しようとするものではありません。

 

例えば、よく見受けられる残業の事前申告制では、従業員に投入する労働力とそこで生み出される成果物の価値を意識させるという点で有効な取り組みのはずですが、そのような意義が薄れ運用が形骸化すると隠れサービス残業を生み出し、人件費は抑制できても結果として従業員の働く意欲もパフォーマンスも下がります。これでは本末転倒です。

 

新型コロナウィルスの影響もあって、2021年の出生数は過去最少の81万1604人で6年連続で最少数更新となり、ますます少子化が進んでいます。今後中小企業では人材確保が一層厳しくなると予想され、中小企業の存続と発展には生産性の向上は必須です。

 

外部環境が激しく変化する近年、働くことの価値観の多様化、出産育児・介護といったライフイベントとの両立、定年延長や70歳までの就業問題など山積する雇用課題をクリアしながら、さらなる生産性向上をはかるためには、人件費対策に留まらず「個々の多様性(強み)を最大限に活かすしくみづくりへの転換」が求められています。

執筆者ご紹介


社会保険労務士 小河みさき(おがわ・みさき)

企業の切実な悩みである「人材育成問題」の解決のために、コミュニケーションの促進やモチベーションアップの施策など組織風土改革の支援、ブラック企業と呼ばれないための社内規則の整備、産業カウンセラーとしてメンタルヘルスへの取組みをサポートします。

  1. 労務管理コンサル(組織開発支援)
  2. メンタルヘルス対策
  3. 社内規定作成

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