日頃から多くの契約書を拝見しておりますが、今回は 「民法改正で契約書の改訂は必要 か」 という問題を考えてみたいと思います。 先日公布された改正民法の施行日は平成 32 年 4 月 1 日が有力視されています。現行法が 変更される点は多岐にわたりますが、これまで利用している契約書を改訂する必要性があ るか、私見によりランキングしてみました。 (必要度:低★ 中★★ 高★★★)
項目 | 改正の内容 | 契約書変更の要否 |
消滅時効 ★ | 民法上の消滅時効期間は 5 年に統一。 | 商取引の場面では商法が適用されるため、消滅 時効期間は以前から 5 年である。契約書に時効 期間を書く必要性もない。 |
法定利率 ★ | 法定利率は変動利率とさ れ(改正法施行時は 3%)、 商事法定利率の規定は削 除される。 | 遅延損害金の利率に関心がある当事者は契約書 に利率の特約を設けている。このような特約は 改正法の影響を受けず、そのまま有効である。 |
履 行 追 完 請 求等 ★★ | 売買や請負の目的物に瑕 疵がある場合、買主や注文 主は、売主や請負人に対し て履行追完請求(修補・代 替物の引渡し)や代金減額 請求ができるようになる。 | 売主や請負人にとって特段の不利益はなく、む しろ従前から契約書に織り込まれている事項で ある。ただし、後日の争いを防ぐためにも、減額 金額の算定方法などを規定しておくことは有益 と思われる。 |
債 務 不 履 行 解除 ★★ | ❶売主や請負人に帰責事 由がなくても買主や注文 主は解除できる。また、❷ 現行法では解除できない 場合(瑕疵担保責任で目的 達成不能とまではいえな い場合や土地工作物の場 合)でも解除可能となり、 ❸損害賠償の範囲が信頼 利益から履行利益(逸失利 益を含む)へと拡張される。 | ❶お互いに代金請求も損害賠償請求もできない 状態で、解除を封じる規定を新たに設ける必要 はない。❷についても契約書で解除を封じてお く必要はない(むしろ、契約書で解除できると規 定されているケースが多いと思われる)。❸につ いては、売主や請負人にとっては、損害賠償の範 囲を信頼利益に限定する規定を設けることがリ スク低減につながる。 |
連 帯 債 務 の 相対効 ★★ | 現行法では連帯債務者に 対する履行の請求の効力 (時効中断など)は他の連 帯債務者にも及ぶが、改正 法では特約がない限り及 ばなくなる。 | 債権者にとっては、連帯債務者や連帯保証人に 対する履行の請求の効力を、他の連帯債務者や 主債務者にも及ぼす旨の特約を設けておくほう が有利となる。 |
債権譲渡 ★ 債 務 者 の 承 諾 ★★★ | ❶現行法では譲渡禁止特 約に反する債権譲渡は無 効だが、改正法では有効と なる。また、❷改正法では、 債務者が債権譲渡を異議 なく承諾しても、元債権者 (譲渡人)に対する抗弁を 新債権者(譲受人)に対抗 できる。 | ❶債権譲渡が有効でも、債務者は、譲渡禁止特約 の存在を知り得る譲受人に対して履行を拒絶で きるため、現在の譲渡禁止特約を変更する必要 はない。❷債権の譲受人は、債務者から債権譲渡 の承諾を得る際には、積極的に「抗弁権を放棄す る」旨の承諾を得る必要がある。 |
保証 ★★★ | ❶個人が保証人となる根 保証契約は書面で極度額 を定めなければ無効とな り、❷事業のための保証を 個人に委託する主債務者 は保証人に財産状況等の 情報を提供しなければな らず、これを怠った保証契 約は取消すことができ、❸ 主債務者が期限の利益を 喪失した場合、債権者は保 証人に通知しなければそ の間に増加した遅延損害 金を請求できず、❹事業用 資金の貸付について個人 (主債務者の役員等を除 く)が保証人となる場合、 保証契約締結前1か月以内 に公正証書により保証意 思を表示しなければ、保証 契約は無効となる。 | ❶には、賃貸借契約や取引基本契約の保証など が広く含まれる。保証債務の限度額を明記する ことが必要である。❷は、債務者が連帯保証人に 対して自らの財産状況等の情報を提供したこ と、連帯保証人がその提供を受けたこと及びそ の情報が正確であることの表明保証、債権者が 担保を取得している場合はその内容を明記する 必要がある。❸は、連帯保証人が住所変更時に債 権者に届出ること、連帯保証人がこれを怠った ため債権者からの通知が到達しなかったとして もその通知は通常到達すべきときに到達したも のとみなすことを定めるべきである。 以上に加え、前記連帯債務の相対効を排除する 特約も設けておくべきである。 |
保証人が存在する契約書を改訂すべき時期ですが、改正法は施行日以降の保証契約に適用されますので、施行日前に締結済みの保証契約については現行法がそのまま適用されま す。しかし、賃貸借契約書や取引基本契約書では、契約期間を 1 年間としたうえで、契約満 了の 1 か月前までに当事者から特段の意思表示がない限り当該契約は更に同条件で 1 年間 更新されるなどの規定が設けられていることがあります。当事者が何も意思表示しないま ま更新されればよいのですが、例えば更新時に賃料や単価などの取引条件を変更する合意 を行った場合、更新後の保証契約には改正法が適用され、極度額を定めていない保証契約が 無効となってしまうおそれもあります。 したがって、保証人を伴う取引基本契約を締結する場合は、改正法施行日後に更新される 場合を想定して、今から改正法により求められる事項を定めておくべきでしょう。
以上
執筆者ご紹介
弁護士 高島浩(たかしま・ひろし)
事業の再生手続(私的整理、民事再生)や法人の清算手続(特別清算、破産)を数多く手がけています。また、企業間における商取引やM&Aを巡る契約交渉、債権回収、労働関係紛争、海外進出(中国、東南アジア)に関するご相談も承っております。
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