再確認!毎月の残業代、きちんと計算できていますか? 「後継者に負の遺産を残さないために」/社会保険労務士湯本さやか

Ⅰ 事業承継で見落とされがちな『割増残業代』という簿外債務


先日、社会保険労務士としてある事業所様をご訪問しました。

その事業所様は代替わりした翌月に労働基準監督署の調査が入り、残業代の未払いを指摘されたとのことでした。

どうやら前社長様は「残業代は〇〇円くらい」と、感覚で計算をされていたようで、「残業代の正しい計算方法が分からず、指摘されてもいくら不足かわからないので一緒に見てほしい」という現社長様からのご依頼でした。

割増残業代の計算をしてみると、かなりの金額の支払不足があり、過去 6 カ月にわたって計算し、追加で未払割増賃金を支給しました。

 

事業承継の場面では、借入金や在庫など『見える負債』には皆さんとても敏感ですが、割増残業代の支払不足のような『見えない負債』は見落とされがちです。

ところが、この簿外債務が、承継後に数百万円~数千万円単位で噴き出すケースが実際にあります。

 

事業承継に関係ない事業所様でも同じように「残業代が足りないと労働者から労働基準監督署に申告があり、調査が入った。時間もお金もかかって最初からきちんとやっておけばと後悔した」というお話はよく聞きます。

会社と労働者は「賃金の支払」⇔「労務の提供」という契約を交わしていますので、きっちりと賃金を支払うことは企業の義務です。

 

そんな出来事もあり、今回は基本に立ち返り、今一度「残業代」というものについて復習していただければと思います。

 

 

Ⅱ 労働時間・割増率の基礎


使用者は、労働者に、時間外労働、休日労働、深夜労働を行わせた場合、法令で定める割増率以上の率で算定した割増賃金を支払わなければなりません(労基法第 37 条)。

種類 支払う条件 割増率
時間外労働  法定時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき 2割5分以上(1か月60時間を超える時間外労働については5割以上※中小企業は、2023年4月1日から適用)
休日労働 法定休日(週1日)に労働させたとき 3割5分以上
深夜労働 22時から5時までの間に労働させたとき 2割5分以上

① 時間外労働

時間外労働とは、(変形労働制など特殊な場合を除き)1 日 8 時間、一週間 40 時間を超えて勤務させたものをいいます。

この場合 2 割 5 分以上、つまり時給 1,000 円であれば 1,250 円支払わなければなりません。

事業主様が「知らなかった!」とおっしゃるのは、1 か月 60 時間を超える時間外労働については 5 割以上、つまり時給 1,000 円であれば 1,500 円支払わなければなりません。

これは 2023 年 4 月 1 日から適用されています。

② 休日労働

労働基準法では原則週 1 日以上の休日を取らなければいけない、と規定されています。

その原則週 1 日以上の休日が取れなかった場合は休日労働となり、その日は 3 割 5 分以上の支払が必要です。(時給 1,000 円であれば 1,350 円)

所定休日(週 1 回の法定休日は確保されている場合)は①を適用し、1 日 8 時間、週 40時間を超える場合は 2 割 5 分以上の割増が必要です。

週 6 日×8 時間働いていたら、週 48 時間になりますので、8 時間については 2 割 5 分の支払が必要ですね。

③ 深夜労働

夜 10 時(22 時)~朝 5 時の深夜の時間に勤務させたときは、心身に負担がかかるため2 割 5 分の割増賃金が必要です。時給 1,000 円の方が深夜にかけて勤務された場合は、深夜の間は+250 円になります。

Ⅲ 割増賃金の計算の基礎


月給の人はどう計算したらよいの?とよく尋ねられます。

簡単に言うと、月給制の場合は時給に換算した上で、残業代を計算します。

この際、1 年間の勤務時間を平均した「1 か月の平均所定労働時間」を使いますので、会社カレンダーをしっかり作成しましょう。

また、残業代を計算する上で、計算の基礎に含むものと含まないものもあることにも注意してください。家族手当や住宅手当は入れませんが、全員一律の金額等の場合は含むことがあるので、行政や専門家にしっかりと確認するようにしましょう。

固定残業代についても残業代計算の基礎には含みませんが、固定残業代は注意が必要です。こちらについては以前、こうべ企業の窓口会員である弁護士の中島健治さんが解説していますので、是非ご確認ください。

Ⅳ その他注意すること


労働時間は 1 分単位できちんと管理することも必要です。30 分単位、15 分単位で切り捨てる等されている事業所様が多いですが、最近は労働基準監督署の調査などで指摘されるようになっています。また、タイムカードなどは客観的な方法できちんと管理するようにしてください。

このように、「働いていただいた分、給与を支給する」という契約の根幹であるため、賃金が不足していたという問題は重大なことです。

 

今回お話しした内容以外にも、「変形労働時間制」や「法律の例外」などを使われている事業所様もあります。給与計算は簡単…と思われがちですが、きちんと正しい知識をもって計算していただくことがとても重要だと思います。

 

ちなみに、私は給与計算技能検定 1 級という資格をもっています。なかなか学びがいのある資格試験ですので、よければチャレンジしてみてください。

気がついたら支払不足が多額になっていて経営に影響が出た、労働者の信頼を失った、会社の信用を失った、再計算や調査対応で多くの時間を取られた、せっかく事業承継したのに思わぬ負担をかけてしまった…後悔する前に、基礎を今一度確認して、足元を見直しておきましょう!

 

私も所属する神戸商工会議所所属の士業有志で立ち上げた「こうべ企業の窓口」では、複数士業が事業者の皆様をサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。

執筆者のご紹介


社会保険労務士 湯本さやか(ゆもと・さやか)

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さや社会保険労務士事務所

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