
1.高齢化と後継者不足がもたらす課題
建設業界では、高齢化と若手不足が深刻な問題となっています。
55 歳以上の建設業従事者は約 37%、一方で 29 歳以下は約 12%、また中核となる 30〜49歳の層も、過去 20 年で約 60 万人減少しており、世代交代が進みにくい状況です。
さらに帝国データバンクの調査では、建設業の後継者不在率は 60.5%と、全業種平均(53.9%)よりも高い水準です。
2.建設業許可制度のこれまで
これまでは、子どもが親の会社を受け継いだり、会社を誰かに譲ったりする場合でも、建設業の許可は引き継げず、改めて申請し直す必要がありました。そのため、工事が受注できない「空白期間」が生まれることで、事業継続に支障が出るケースがありました。こうした背景から、2020 年(令和 2 年)に法律が改正され、許可を引き継ぐことができる制度が新たにできました。
3.許可承継制度で何が変わった?ビフォーアフターで比較
内 容 | これまで(Before) | 今後(After) |
許可の引き継ぎ |
不可 新たに許可の取得が必要 |
可能 条件を満たせば引き継げる |
空白期間 | 許可が必要となる工事ができない期間が発生 | 許可が必要な工事が引き継ぎ後すぐにできる |
相続(親から子など) | 新たに許可の取得が必要 | 死亡後 30 日以内に申請すれば許可を引き継げる |
会社の合併・分割
|
許可は消滅 新たに許可の取得が必要
|
申請をすれば許可を引き継げる |
4.許可承継制度のポイント
①引き継ぎが可能なケース
■会社を譲るケース(事業譲渡)
■会社同士が合併する場合
■会社を分割する場合
■個人事業主が亡くなった場合(相続)
※いずれも事業のすべてを引き継ぐことが条件です
②申請のタイミング
■会社を譲る・合併・分割する場合
⇒予定日の 90 日前までに申請
■相続の場合
⇒亡くなってから 30 日以内に申請
③メリット
■工事が止まらない
⇒空白期間がなく、すぐに事業を続けられる
■手続きが簡単になる
⇒新たに許可を取得するための新規申請よりも負担が少ない
■信頼が保てる
⇒取引先との関係をそのまま維持できる
5.事業承継の基本は“今のうちから備える”
許可承継制度が整備されたことで、事業の引き継ぎは容易になりましたが、実際に制度を活用するには、後継者の許可要件に関する適格性や申請準備を含めた“計画的な対応”が不可欠です。
特に、建設業許可の重要なポイントとなる技術者や経営管理の要件を満たすためには、時間を要することがあり、承継時期を見越した早めの確認・準備が求められます。
最後に実務で必要となるポイントを整理するためのチェックリストと準備ステップをご紹介します。
[事業承継チェックリスト]
チェック項目 | 状 況 | 備 考 |
後継者候補は決まっているか | □はい □いいえ | 親族・従業員・第三者など |
後継者は許可要件を満たしているか | □はい □いいえ | 経営管理者・技術者など |
承継の時期は決まっているか | □はい □いいえ | 目安でも可 |
許可業種の全部を引き継ぐ予定か | □はい □いいえ | 一部承継は不可 |
申請に必要な書類は把握しているか | □はい □いいえ | |
相続の場合、死亡後 30 日以内に申請できるか | □はい □いいえ | |
取引先・金融機関への説明は済んでいるか | □はい □いいえ | |
行政書士など専門家に相談しているか | □はい □いいえ |
[承継準備ステップ表]
ステップ | 内容 | 目安時期 |
STEP1 | 後継者の選定と意思確認 | 承継の 2〜3 年前 |
STEP2 | 許可要件の確認と育成 | 承継の 1〜2 年前 |
STEP3 | 承継スケジュールの策定 | 承継の 1 年前 |
STEP4 | 必要書類の整理・準備 | 承継の 6 ヶ月前 |
STEP5 | 認可申請の提出 |
承継予定日の 90 日前 (相続は死亡後 30 日以内) |
STEP6 | 承継後の体制整備と報告 | 承継後すぐ |
事業承継には制度の理解だけでなく、タイミングを見据えた準備が欠かせません。
事業承継時期が近づいている事業者の方は、今のうちから一つずつ整理することで、将来の不安や手続きの負担を減らすことができます。確実な承継に向けて、早めの相談と情報整理をおすすめします。
「まだ先の話」と思っていても、いざという時に慌てないよう、今から備えることが、次世代への責任ある一歩ではないでしょうか。
我々こうべ企業の窓口には、12士業30名を超える各種法律の専門家が所属しておりますので、法律に関する「こんなことって誰に相談したらいいのだろう?」は、探すことなく!迷うことなく!『こうべ企業の窓口』にお問い合わせください。
執筆者のご紹介

行政書士 谷口昌良(たにぐち・あきら)
ゼネコン出身の行政書士という特徴を生かし、特に建設業・産業廃棄物関連の許可申請を得意としてます。また、介護事業所との付き合いも多く、介護事業の許可申請についても対応可能です。行政書士も複数体制で、対応の早さとフットワークの軽さが売りです。
1.建設業許可
2.介護事業許可
3.NPO・財団・社団法人設立
行政書士リーガルオフィス神戸
〒658-0081 神戸市東灘区田中町1丁目15番5号 コマツBILD本山301号
TEL 078-436-1366
皆様へお願い
このコラムをご覧になって、専門家にお電話いただく際には、「『My法務コラム』を見て電話した」とおっしゃっていただけると、スムーズです。
宜しくお願いいたします。