会社は、会社法で定められている通りに手続きを進め、登記することによりつくることができます。また、会社をつくると様々な義務が生じるため、役所への届出が必要となります。たくさんありますが、ポイントなる手続きを簡単にまとめました。
なお、会社には「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の 4 種類がありますが、「株式会社」か「合同会社」をつくる方が多いので、この 2 種類に絞って解説します。また、これから事業を始める人、もしくは個人事業主から法人成りする人が独りで会社をつくる場合を想定しています。
Ⅰ.会社をつくるときの手続き
1.会社概要の決定:
まずは会社の基本的な事項を決めます。次に述べる定款にも記載する事項となります。
・会社の種類
一般的に、合同会社は株式会社に比べて設立費用が抑えられます。また役員の任期がないなど、株式会社に比べ組織運営が簡便になっています。一方で株式会社に比べて認知度が低いため、株式会社に比して信用力が劣る場合もあります。また、株式発行による資金調達や上場は株式会社にしかできません。これらのメリット・デメリットを勘案し、会社の種類を決定します。
・会社名(商号)
必ず会社の種類(株式会社、合同会社)を最初か最後につけます。また、住所が異なれば既にある会社と同じ商号でも登記できますが、他の会社と誤認させる目的など不正の目的をもって登記することは禁止されています。
・本店所在地
役所からの郵便物が届くので、実際に業務をされるところがよいでしょう。
・事業目的
当初予定している事業のほか、将来的に考えている事業や付帯する事業も含めるのがよいでしょう。
・資本金
1 円でも可能ですが、現実的にはすぐに資金不足に陥ってしまいますので、事業計画や事業規模に応じた金額とするのがよいでしょう。
2.定款の作成:
定款は会社の基本的な規則を定めた憲法のようなものです。株式会社の場合は、公証役場で定款の認証を受ける必要があります。
3.会社実印の作成
後述する登記申請書類に会社実印を押印するものがあります。実印の届出自体は登記申請と同時に行いますが、物理的に押印が必要となるため、会社実印は先行して作成することになります。
4.資本金の払い込み:
設立中の法人では銀行口座を開くことができないため、発起人の銀行口座に資本金を払い込み、その証明書を作成します。
5.登記申請書類の作成:
登記申請書、定款、資本金の払込証明書などを準備します。
6.法務局での登記申請
法務局にて会社設立の登記を行います。申請から登記完了まで時間がかかる場合もありますので、事業開始予定日から逆算して早めに申請するのがよいでしょう。
Ⅱ.会社をつくった後の手続き
1.税務署への届出:
すぐに人を雇う予定がなくても、提出し忘れを防ぐためにも以下の 4 点セットは同時に提出しておくのがよいでしょう。
・法人設立届出書
法人を設立したら必ず提出する書類です。定款の写しの添付が必要です。設立の日以後 2 ヶ月以内に提出します。
・青色申告の承認申請書
青色申告を行うと税務上の特典があります。複式簿記で記帳するなど要件がありますが、会計ソフトを活用することにより大部分はカバーできます。青色申告の承認を受けるためには、設立の日から 3 ヶ月以内に提出する必要があります。
・給与支払事務所等の開設届出書
人を雇わなくても、社長の役員報酬が発生し、原則として源泉徴収義務が発生するため、開設届出書を提出します。設立の日から 1 ヶ月以内に提出します。
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
毎月、役員、従業員の給与から所得税を天引きし、翌月 10 日までに国に納付するのが原則ですが、この届出書を提出することにより納付を半年ごと(7 月と 1 月)にすることができます。この特例が使えるのは、給与の支給人員が常時 10 名未満の場合です。要件に合致していても、必ずしも特例を受ける必要はありませんが、事務の効率化を考えると、他の書類と合わせて提出しておくのがよいでしょう。原則として、提出した日の翌月に支払う給与等から適用されますので、提出した月に支払った給与等に係る源泉所得税は原則どおり、翌月 10 日までに納付する必要があります。
2.都道府県税事務所・市町村役場への届出:
・法人設立届出書
税務署(国)に提出するものと同じような内容ですが、法人住民税・法人事業税の納付や従業員の住民税の特別徴収(給与天引き)などの税務が生じるため、県や市にも届出する必要があります。登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の写し、定款の写しを添付します。県や市によって書類や添付資料が異なる場合がありますので、県や市のホームページで確かめるのがよいでしょう。提出期限は、税務署(国)に提出する法人設立届書と同様、設立の日から 2 ヶ月以内です。
3.年金事務所への届出:
会社の場合、社長ひとりであっても社会保険への加入義務があります。新たに社会保険の適用事業所となるので届出が必要となります。添付書類として法人(商業)登記簿謄本(コピー不可)が必要です。
提出期限は設立の日から 5 日以内となります。社長ご自身の健康保険にも関連する手続きとなりますので、ここから手を付けるのがよいでしょう。
・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
新規適用届を出しただけでは、誰を社会保険に入れるのか役所は把握できません。この書類を提出し、被保険者としての資格を取得させます。会社設立時は新規適用届といっしょに提出します。
4.労働基準監督署への届出:
原則として、役員は労働保険に加入できないため、社長ひとりの場合は届出不要です。会社の場合、従業員を 1 人でも雇う場合は届出が必要となります。
・保険関係成立届
保険関係が成立した日(=労働者を初めて使用した日)の翌日から起算して 10 日以内に提出します。
・概算保険料申告書
保険関係が成立した日の翌日から起算して 50 日以内に提出します。合わせて、その年度分の保険料も納付します(保険関係が成立した日からその年度の末日までに労働者に支払う賃金の総額の見込額に保険料率を乗じて得た額)。この保険料は概算で納付しますので、次年度の保険料申告時に実際額との精算を行います。
5.ハローワークへの届出:
4.の届出と同様、会社の場合、従業員を 1 人でも雇う場合は届出が必要となります。なお、一般的に農林漁業・建設業等は、提出先がハローワークではなく労働基準監督署となります。
・雇用保険適用事業所設置届
設置の日の翌日から起算して 10 日以内に提出します。
・雇用保険被保険者資格取得届
資格取得の事実があった日の翌月 10 日までに提出します。
6.金融機関での法人口座開設:
会社名義の銀行口座を開設します。銀行はマネーロンダリングやテロ資金供与防止のために、口座開設の申込者を適切にチェックすることが求められています。日本はチェック体制が甘いと海外から批判されており、その対応のため、銀行口座の開設のハードルが少しずつ上がっていっています。
具体的には、事業実態が分かる資料の提出等が求められたり、まだ事業を開始していない場合は、事業計画の提出が求められたりすることもあります。
7.各種許認可
事業を行ううえで必要な許認可があれば、許認可を取っておきます。
これらの手続きは、事業の起ち上げをスムーズに行い、手続きの漏れで足を引っ張られることがないよう、漏れなく正確に行う必要があります。上記の手続きは、一般的なものであり、設立する会社の状況により、細かい点で変わってくる場合もあります。そのため、会社の設立や設立後の手続きの詳細、必要書類等については、専門家に相談することをお勧めします。
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執筆者ご紹介
公認会計士 税理士 中小企業診断士 森清聡啓(もりきよ・あきひろ)
23年大手監査法人にてキャリアを積んで参りました。より顧客に密接したサービスを展開するため、2021年10月に神戸三宮にて会計事務所を起ち上げました。顧問税理士、経営計画作成支援、上場準備支援、業務効率化等、数字にまつわるサービスを幅広く展開していきます。
口だけでなく手も動かす。もちろんアタマも働かせる。そして心を通わせる。そんなサービスを提供していきます。まずはお気軽にお問合せください!
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