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人事権とキャリア権の調和/弁護士高島浩

コロナ禍では、需要が減少して労働力に余剰が生じた部署から人手不足の他の部署へ従業員を配置転換した企業も少なくなかったようです。

 

職種を限定して採用した従業員でなく、賃金も維持されるのであれば、配置転換は自由にできるのでしょうか。また、そのような配転命令が制限されるのはどのような場合でしょうか。

1.人事権に基づく配転命令

企業が行う事業活動には様々なものがあり、自社を取り巻く環境の変化に臨機応変に対応するため、就業規則には「業務の必要性より社員の配置転換(職場の転換、職種の変更等)を行うことができる」という規定が置かれていることが一般的です。新卒社員を一括採用する企業においては、従業員に様々な事業や現場を経験させるという意義もあります。

一方、中途採用の現場では、企業が特定の技能や能力に着目して採用を行い、従業員側でも自らの特技を生かせることを期待して、職種限定の合意がなされることがあります。このような合意があれば、人事権に基づく職種の変更は予定されないこととなります。

それでは、職種限定の合意が存在しない場合、企業は自由に従業員を配置転換できるのでしょうか。この問題は、従業員が長年培ってきた能力・経験を生かすことができない現場に配置するような場合に問題となります。

2.企業の裁量の限界

名古屋高裁令和3年1月20日判決は、まさにこの点が争点となった事例です。

 

Y社(運送会社)は、運行管理業務や配車業務を行える人材が不足していたため、これらの人材を募集していました。従業員Xは、運行管理者の資格を保有し、複数の会社で運行管理者や配車業務の経験を有しており、自らの資格を生かせると考えてY社の採用面接を受け、入社しました。採用面接の際、Y社は、自分の資格と経験を生かしたいというXの希望を聴き取っていました。

 

しかし、入社から約1年半後、Y社がXを倉庫勤務に配置転換したことから、Xは、Y社の配転命令は権利の濫用にあたり無効であると主張して訴えを提起しました。

 

裁判所は、XとY社との間には、業務を運行管理や配車に限定する「職種限定の合意」は存在しないと認定しながらも、「本件配転命令は、業務上の必要性が高いものではなく、運行管理業務や配車業務に従事することへのXの期待に大きく反し、その能力・経験を活かすことができない倉庫業務に漫然と配転し、Xに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせたもので、権利濫用にあたり無効」と判断しました。

3.労使の共存共栄という視点

近時、キャリア権という考え方が普及しつつあります。人々が意欲、能力、適性に応じて仕事を選択し、職業生活を通じて幸福を追求する権利と定義されます。グローバルな競争力の観点から見た場合、企業も労働者も、若者も中高年も、障碍がある者もない者も、正社員もフリーランスも、それぞれの立場で生産性を高め、仕事の成果を高めなければ、人口減少が進む我が国の社会に未来はありません。また、従業員にとっても、自分の得意分野で資格や経験を活

 

人事権を行使するにあたって企業に裁量があることは揺るぎませんが、もはや無尽蔵に人材を得られる時代ではなく、通年採用や中途採用も一般的となってくる中で、よい人材を集め、生産性を高めていくためには、キャリア権に配慮した人事権の行使が不可欠となっています。

4.その他の配慮義務

 

本稿ではキャリア権の観点から事例をご紹介しましたが、これ以外にも、企業には従業員を配置転換するにあたって配慮義務が課されています(育児介護休業法第26条など)。

従業員の配置転換を検討される場合には、業務上の必要性だけでなく、従業員に与える不利益の程度についても検討いただくことが必要です。

 

執筆者ご紹介


弁護士 高島浩(たかしま・ひろし) 

 

事業の再生手続(私的整理、民事再生)や法人の清算手続(特別清算、破産)を数多く手がけています。また、企業間における商取引やM&Aを巡る契約交渉、債権回収、労働関係紛争、海外進出(中国、東南アジア)に関するご相談も承っております。

 

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  3.商取引(契約書、債権回収)

 

 

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