弁護士 高島 浩 (弁護士法人神戸シティ法律事務所)
この度の豪雨災害により被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。
近時、豪雨などの自然災害について「数十年に一度」「観測史上最大」という報道がなされることが多いと感じます。
企業においては、災害発生時には従業員等の人の安全確保を最優先するとともに、被害の把握と復旧を急がなくてはなりません。また、数十年に一度クラスの災害が繰り返し発生することも想定して、あらかじめ BCP(事業継続計画)を策定しておく必要があると考えます。
ところで、自然災害が広範囲に発生した場合、取引先の被災や交通網の遮断により、被災地から離れた企業でも事業に支障が生じる場合があります。
先日の豪雨災害でも、多くの企業が長期間にわたる工場の操業停止を余儀なくされ、関西から九州地方への物流にはフェリーが利用されていることが報じられています。
今回は、「もし自然災害等の不可抗力によって商品が納品されない場合でも売買代金を支払わなければならないか」という身近な危険負担の問題について改めて考えてみたいと思います。
取引の現場では、「商品が納品されない以上、代金を支払う必要はない」と考えるのが通常の感覚だと思います。
実際、法律でも、賃貸借契約や請負契約における目的物が不可抗力により滅失した場合には、目的物の提供を受けられない賃借人は賃料債務を負わず、注文者も代金支払債務を負わないとされており(民法 536 条 1 項)、運送品が不可抗力により滅失した場合も、荷主は運送代金債務を負わないと規定されています(商法 576 条)。
しかし、例外的に、当事者が特定した商品の売買契約については、不可抗力のリスクは買主が負担すると規定されています(民法 534 条 1 項)。このため買主は、不可抗力により商品が納品されなくても、売主に代金を支払わなければならないリスクを負っているのです。
商取引に関する民法や商法の規定の多くは任意規定であるため、取引当事者間で異なるルールを定めることが可能です。
先ほどの売買の例でも、「売主が買主に商品を引渡すまでに発生した危険は売主が負担する」と定めておくことにより、買主は自然災害等のリスクを回避することができるため、契約書の定めは極めて重要となってきます。
既に多くの企業では取引の相手方と契約書を締結されていますが、基本契約書を取り交わすことなく注文書と請書のみで取引が行われている場合は、思わぬ損失を既に多くの企業では取引の相手方と契約書を締結されていますが、基本契約書を取り被る可能性があることにご留意いただく必要があります。
5 民法改正と契約書
2020 年 4 月から施行される改正民法では、特定物の売買において不可抗力のリスクを買主が負担するという前記のルールは廃止され、商取引の実務感覚に沿った改正が行われる予定です。
しかし、今度は売主から見ると、買主から提示された契約書に「不可抗力による危険 は買主による検収をもって移転する」などと記載されていた場合には、たとえ買主に商 品を納品した後であっても、検収が行われない間のリスクを負い続けることとなります。
自然災害等のリスクを当事者間でどのように配分するか。このようなルールを定める契約書の重要性は、民法改正によっても変わることはありません。
執筆者ご紹介
弁護士 高島浩(たかしま・ひろし)
事業の再生手続(私的整理、民事再生)や法人の清算手続(特別清算、破産)を数多く手がけています。また、企業間における商取引やM&Aを巡る契約交渉、債権回収、労働関係紛争、海外進出(中国、東南アジア)に関するご相談も承っております。
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