社会保険労務士 西尾 隆 (西尾隆社会保険労務士事務所)
テレビの年金特集などを観ていると、「年金は繰り下げて受給したほうがお得ですよ。」と、評論家がコメントしていますが、本当なのでしょうか?
今回は老齢年金の繰下げ受給について解説していきます。
一般的に、男性は、昭和 36 年 4 月 2 日以降の生まれ、女性は、昭和 41 年 4 月 2 日以降生まれの方は、原則 65 歳から年金が支給開始になります。
65 歳の誕生日の前日から年金請求手続きを行うことができ、年金を受給することができます。
年金の繰下げ受給とは実際にはどういうことなのでしょうか。
例えば、65 歳の時に、あえて老齢年金の請求手続きを行わずに、最低1年間保留した状態で、66 歳になったとします。
「どうせ1年間待ったのだから、1 年分を繰り下げて受け取ろう」と、その時点から繰り下げて年金の請求手続きを行うことを、1 年 0 か月の繰下げ受給といいます。
手続きをした翌月分から繰り下げて受け取ることができ、0 か月というのは、1か月単位のことで、繰り下げ受給の手続きを行うことができるのです。
メリットとしては、1か月につき、0.7%年金額が増額されますので、0.7%×12 か月=8.4%にて、8.4%増額された年金を、生涯にわたって受け取ることができます。
例えば、A さんの老齢基礎年金が 70 万円で、老齢厚生年金が 130 万円とします。
両方とも繰り下げ受給した場合だと、(70 万+130 万)×1.084%=約 217 万円になります。
したがって、繰り下げ受給した 66 歳以降から増額された約 217 万円の年金額を受け取ることができるのです。
かりに 5 年間繰り下げて、70 歳から年金を受け取った場合はどうなるのか?
5 年間繰り下げれば、0.7%×60 か月=42%です。
70 歳以降、42%増額された年金額を受け取ることができます。
先ほどの事例だと、本来の 65 歳からの請求なら(70 万+130 万)=200 万円ですが、
5 年間繰り下げると、(70 万+130 万)×1.42%=284 万円になります。
これなら 70 歳まで繰り下げて受給したほうが良いと思われがちですがデメリットもあります。
繰り下げ受給とは、受給していない待機期間の年金額を受け取らない代わりに、将来受け取る増額分で回収しますよ、という制度なのです。
端的に言うと、本来なら 65 歳から 200 万円の年金額を受給できますが、5 年間繰り下げて、70 歳から受け取る場合は、65 歳~70 歳までの 200 万×5 年間=1,000 万円分の年金を受け取ることができません。
したがって、65 歳から 70 歳まで支給される 1,000 万円を受け取らない代わりに、70 歳から増額された 84 万円で回収しますよという制度なのです。
そうした場合、回収するためには、1,000 万円÷84 万円=11.9 年です。
70 歳から繰り下げた場合は、最低でも 82 歳近くまで長生きしなければなりません。
この場合、82 歳になるまでに万が一の際には、回収できずに大損してしまいます。
繰り下げ待機分を回収するにはどのタイミングでも繰り下げた翌月から必ず 12 年近く必要です。
もちろん、長生きする自信があればお得な制度です。
ちなみに、70 歳まで年金を受け取らずに頑張ってきたが、「病気で長生きできそうにないなあ~」となった場合には、その時点から 65 歳に遡って請求することもできます。
65 歳から 70 歳まで請求していなかった 5 年分の年金が一括で振り込まれます。
しかし、遡及支払いなので年金は増額されません。
あと、注意点としては、年金を繰り下げして、老齢厚生年金の部分を増額しておけば、将来自分が亡くなった際に、妻が受給できる遺族厚生年金が増えるのではないかという誤解があります。
しかし、遺族厚生年金を計算する際の、夫の老齢厚生年金部分は、たとえ実際に繰り下げ受給していた場合であっても、繰り下げ受給する前の、本来の老齢厚生年金部分の年金額で計算されます。
したがって、繰り下げ受給して増額された年金を受け取っていたとしても、遺族厚生年金は、1円も増額されません。
また、報酬との調整で老齢厚生年金が支給停止になっている部分については、繰り下げていたとしても、その部分については一切増額されません。このように老齢年金の繰下げ受給については、メリット・デメリットがありますので、注意が必要です。
執筆者ご紹介
社会保険労務士 西尾隆(にしお・たかし)
うつ病、がん、人工透析、糖尿病、脳梗塞、心疾患などあらゆる病気が障害年金の対象です。障害年金を活用することで、がんなどの病気で働けない従業員への就労支援対策にもなります。病気による離職で優秀な人財を流出させない職場環境の構築といった就労支援対策を提案いたします。
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