社長の妻が遺族厚生年金を受給できない場合があります (夫婦で報酬額を入れ替えているときの注意点)/社会保険労務士西尾隆

社会保険労務士 西尾 隆 (西尾隆社会保険労務士事務所)

夫の死亡後に遺族厚生年金を受給できない場合があります。
夫婦で法人の代表取締役・取締役となっていて、代表取締役(例えば夫)が年金支給停止を
逃れるために、次のように夫婦の報酬月額を入れ替えていることがあります。
 
夫(代表取締役):報酬月額 100 万円 → 報酬月額 20 万円
妻(取締役)  :  報酬月額 20 万円 → 報酬月額 100 万円
 
小規模法人において、妻がまだ年金受給開始年齢を迎えていない場合や、年金受給開始年齢
を迎えていても夫に比べて年金額が少ない場合によく見られます。
実際に代表取締役と取締役を交代したわけではなく、単に夫の年金受給のためだけに夫婦
の報酬月額を入れ替えているというものです。
 
この場合、取締役の報酬月額が職務執行の対価として適切な額かという問題が発生します。
それ以外にも「報酬入替後に代表取締役(夫)が死亡した場合、取締役(妻)が夫の死亡に
よる遺族厚生年金を受給できない」といった問題も発生します。
これは、夫の死亡当時の生計維持関係認定における妻の収入・所得要件を満たさないため、
妻は遺族厚生年金がもらえなくなってしまうということです。
 
 
(遺族厚生年金をもらうための条件)
遺族厚生年金をもらうためには、受給権者(妻)の収入・所得が原則として次のいずれかの
基準を満たしていることが必要です。
 
・前年の収入が年額 850 万円未満
・前年の所得が年額 655.5 万円未満
 
これらの基準額を超えていても、おおむね 5 年以内に基準額未満となることが客観的に
予測可能であった場合には例外的に生計維持関係があると認定されます。
しかし、役員の場合は従業員と異なり定年もありませんので、この例外措置については、
日本年金機構は認めていませんので注意が必要です。

 

代表取締役の夫の死亡による遺族厚生年金を取締役の妻が受給したいのであれば、妻の年収は、役員報酬以外の恒常的な収入・所得も含めて基準額(年収 850 万円・所得 655.5万円)未満に抑えておくことが重要です。
 
 
(遺族厚生年金の金額)
遺族厚生年金の年金額は亡くなった人がもらうはずだった老齢厚生年金(報酬比例部分)の
4 分の 3 です。
例えば、老齢厚生年金(報酬比例部分)が 160 万円の夫が亡くなった場合の遺族厚生年金は
120 万円です。
夫死亡時に妻が 65 歳未満の場合は、妻が 65 歳になるまで別途 584,500 円の中高齢寡婦加
算が支給される場合があります。
 
社長が亡くなったときに 65 歳だった妻が 85 歳まで生きたなら、それなりの金額の遺族厚
生年金がもらえるわけですが、しかし夫婦の報酬月額を入れ替えてしまったばかりに、遺族厚生年金が 0 円になってしまうのです。
 
社長が年金をもらうために小手先のテクニックを使った結果、妻がもらう遺族厚生年金が
なくなってしまうことがないようご注意ください。

 

執筆者ご紹介


社会保険労務士 西尾隆(にしお・たかし)

 

うつ病、がん、人工透析、糖尿病、脳梗塞、心疾患などあらゆる病気が障害年金の対象です。障害年金を活用することで、がんなどの病気で働けない従業員への就労支援対策にもなります。病気による離職で優秀な人財を流出させない職場環境の構築といった就労支援対策を提案いたします。

 

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