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企業での旧姓使用/司法書士上塩入徹

司法書士 上塩入徹(司法書士かみしおいり法務事務所)

 

先日、最高裁判事に就任した女性判事が「判決などの裁判関係文書で旧姓を使用する」こ とを明らかにしました。夫婦同姓を規定する司法の最高裁判所判事自らが同姓ではなく旧 姓使用を表明したことで、今後の日本社会、そして企業がどのように夫婦の姓を扱うべきか、 その在り方について考えさせられることとなりました。

 

◆選択的夫婦別姓を求める訴訟

女性が積極的に社会に進出し、男性と同じように働くことが当たり前になりつつあるの と時を同じくして、夫婦の“姓(氏)”についての議論が活発になりました。 諸外国では男女が婚姻した場合、婚姻前と変わらず別姓を選択できる国がありますが、今 日の日本においては、民法上婚姻届を提出する際に定めた“夫又は妻の氏”を名乗ることと 規定されています。そしてこの規定が、「個人の基本的人権を侵害しているのではないか」 として、全国各地で選択的夫婦別姓を求める訴訟が展開されてきました。

この選択的夫婦別姓を求める訴訟の波は、平成27年12月16日に最高裁判所で「夫婦 同姓の規定は合憲」との判断が下されたことで一段落したかのように思われます。

 

◆社会で便宜的に旧姓の使用を認める動きが加速

最高裁判決により、これまで通り婚姻した夫婦は夫又は妻の氏を名乗ることになります。 氏を変更することになる当事者は、婚姻届の提出と同時に氏が変わるため、各所での手続が 必要となりますが、夫婦別姓を強く唱えている方の多くは、それらの事務手続きの煩雑さで はなく、「これまで社会的に使用してきた氏を変更することで、周囲にそれを説明して回ら ねばならず、氏の変更は自身の存在の根幹を失うような違和感を覚える」ことを理由に挙げ ています。また、自身が社会に対して強制的に婚姻・離婚・再婚したことを周知させられる ことが、プライバシー権の侵害に当たるという意見もあります。

こうした意見を踏まえてなのか、最近では、会社内外などで便宜的に旧姓の使用を認める 動きが盛んになっています。婚姻後も個人的に旧姓の名刺等を使用していた方自体はこれ までも多くいたものの、最高裁の積極的な運用からも分かるように、以前と比べて社会全体 が旧姓使用に対して寛容になったといえます。

 

◆商業登記手続でも旧姓を記録可能に

最高裁判所では、平成29年9月から裁判関係の文書で裁判官または職員が旧姓を使用 することを認める運用が始まりました。 そして、既にご存知の方も多いと思いますが、会社法・商業登記法では既に、取締役や監 査役などの役員の氏名に婚姻前の氏を記録する運用が平成27年から開始されています。 この制度により、婚姻によって氏を改めた役員は、登記事項証明書(いわゆる会社の登記簿)に婚姻前の氏を併記することが可能になりました。

具体的には、取締役や監査役などの役員の就任による登記又は役員の婚姻による氏の変 更登記を申請する際に、婚姻前の氏を併記するように申し出ることで、下図のように会社の 登記簿にその両方の氏が記録されることになります。 

◎従来の商業登記簿役員欄  
取締役 佐藤太郎
 

平成30年4月1日就任

平成30年4月5日登記

   
◎婚姻前の氏の併記を申し出た場合の商業登記簿役員欄  
取締役 佐藤太郎(鈴木太郎)
 

平成30年4月1日就任

平成30年4月5日登記

  出所:筆者

この規定により、役員の旧姓使用が会社法上認められ、登記簿に記録されることで対外 的にも説明が容易になりました。

 

◆企業としての姿勢

氏を変更する側になることが多い女性は、高齢化社会でかつ人手不足が叫ばれる企業に とって貴重な労働力であると同時に、貴重な消費者でもあります。そんな女性に対して、 企業がどのように対応するかが非常に重要であることは言うまでもありません。

企業が世間の声に耳を傾けて積極的な姿勢を示せば、その情報は即座に世界に発信さ れ、思わぬプラスとなって企業に還元されることもあります。

今回は旧姓使用を例に挙げましたが、世間の声に対する企業としての姿勢を自問する一 助となりましたら幸いです。

 

(この内容は、2018年2月時点の情報です)

執筆者ご紹介


司法書士 上塩入徹(かみしおいり・とおる)

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