東京商工リサーチの調べによると、2020 年 1 月~8 月に全国で休廃業や解散をした企業は 3 万 5,816件で、このペースが続くと年間 5 万 3,000 件を突破し過去最多を更新する勢いです。経営者の高齢化で体力や気力が低下しているところに、後継者不在で事業承継が円滑に進まない中、2020 年 2 月から感染が拡大した新型コロナウイルスで急激な業績悪化に陥り、先行きが見通せないまま事業承継の意欲を喪失した中小企業経営者が増えた状況で、いよいよ「大廃業時代」の様相を呈してきました。
2017 年の経済産業省中小企業庁の発表によると、『①今後 10 年(2016 年~2025 年)の間に 70 歳(平均引退年齢)に達する経営者は 245 万人で、そのうち半数以上の 127 万人が後継者未定。②現状を放置すると、2025 年までの 10 年間累計で約 650 万人の雇用、約 22 兆円の GDP が失われる可能性がある。』というものであった。日本の全企業に占める中小企業の割合は 99.7%で、従業員は全雇用の 70%、経済的付加価値は 55%に及んでおり、特に「ものづくり日本」を支えてきた中小企業の持っている人・技術・ブランドなどの「知的資産」は一度失われてしまったらもう二度と取り戻すことが出来ないためその損失は計り知れません。
また、廃業する中小企業のおよそ 5 割は経常利益が黒字だが後継者が見つからずに廃業に追い込まれています。大企業の下請けを担い地域経済を支える中小企業の大量消滅は、ピラミッドの土台が崩れることになり、雇用が失われ、生産力が落ち、経済力が乏しくなれば社会インフラにまで影響を及ぼし、日本社会の破綻を招きかねない状況です。
業績に問題のない黒字の中小企業が後継者不在のためにやむなく廃業の道を選んでしまうことなく、円滑な事業承継を実現するためには、早期に事業承継の計画を立てて、後継者の確保を含む準備に着手することが不可欠です。事業承継は、現事業を見直し新たな事業の成長や拡大のきっかけにもつながることから、経営者の交代があった中小企業は経常利益率が高いとの報告もあります。そこで、後継者の選定から育成期間も含めれば、事業承継の準備には 5 年~10 年を見越して、事業の将来を見据えた事業計画を立てるとともに、早急に事業承継計画の策定に取り組むことが大切です。
企業を取り巻く経営環境は、①国内人口減少による市場の変化、②IT 化の進展による経営の高速化や効率化、③グローバル化による世界規模での影響拡大、④人材不足や多方な働き方(ダイバーシティの進展)、⑤後継者不在、さらに新型コロナウイルス感染症の影響など、これまでと比しても大きく変化しており、これらの変化に対応するため企業の基盤となる部分の変革が必要です。そこで、現経営者と後継者がともに企業の基盤を見直し事業の状況に合わせて新しい時代に適応した体制や戦略をもって次の世代まで発展させていくための好機ととらえて、事業承継計画を立てていくことが重要です。
事業承継は単に「株式の承継」+「代表者の交代」と考えられることがあり、 事業承継対策といっても、例えば親族内承継であれば一時的に利益を減らして株価を下げて贈与すればよい、M&Aであれば株価の評価を高め売却益を確保すれば良いといった手法の議論に終始してしまう傾向があります。
しかし、事業承継とは文字通り「事業」そのものを「承継」する取組であり、 事業承継後に後継者が安定した経営を行うためには、現経営者が培ってきたあらゆる経営資源(「人(経営)」、「資産」、「知的資産」)を承継する必要があります。
社内事業承継をお考えの方こそ、自社の隠れた強みである「知的資産」に着目して、経産省でも推奨している「知的資産経営」の手法を使って、下記の 5 つのステップでピンチをチャンスに変える事業承継計画を策定することに取り組んでみてはいかがでしょうか?
【社内の事業承継に向けた 5 ステップの進め方】
ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識
早期に準備に着手して、現在の経営状況や経営課題を把握して、事業承継に向けた経営改善に取り組む
ことが出発点になる。
ステップ2:経営状況・経営課題の把握(見える化)
①経営状況の見える化
②事業承継課題の見える化
ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
経営状況を改善し後継者候補が後を継ぎたくなるような企業の魅力づくりが必要である。
①本業の競争力強化
②経営体制の総点検
③経営強化に資する取組み
④業績が悪化した中小企業における事業承継
ステップ4-1:事業承継計画の策定(親族内・従業員承継の場合)
経営に対する思い、価値観、心情を再確認して、自社の経営理念を明文化し共有する。
①中長期目標の設定
②事業承継計画の策定
ステップ5:事業承継の実行
随時計画の修正やブラッシュアップをしながら資産の移転や経営権の委譲を実行する。
≪参考文献≫ 「事業承継ガイドライン」、発行:平成 28 年 12 月中小企業庁
行政書士・社会保険労務士 川島三佳(かわしま・みか)
助成金申請支援や会社設立、許認可申請手続きにおいても、書類作成のプロとしての立場で、会社の隠れた強みを見える化する知的資産経営の手法を活用しながら、一つの業務を大局的にとらえた経営者の思いを効果的に実現する心に寄りそうサポートを得意としています。
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