中小企業金融円滑化法の精神について


中小企業診断士 西口延良 (神戸密着経営 代表)

 中小企業金融円滑化法は、正式名称を「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための
臨時措置に関する法律」(別名:モラトリアム法)と言い、平成21年12月4日から平成
23年3月31日までの時限立法として施行されました。その後、平成24年3月31日ま
で延長され、さらに平成25年3月31日まで再延長され終了しました。この法律は、日本
経済の低迷による中小企業の資金繰りや個人の住宅ローンの返済難を改善するために制定
された法律です。現在、この法律は失効していますが、法の精神を遵守するように金融庁は
金融機関に要請しています。よって、この法律は実質的には現在でも生きていると言えるで
しょう。そこで、本コラムにおいては中小企業金融円滑化法についてご説明いたします。


1.中小企業金融円滑化法が制定された背景
(1)バブル崩壊による貸し渋り・貸し剥がし
 昭和61年~平成3年ごろのバブル景気により株価や地価は上昇し、金融機関は建設
業・不動産業・ノンバンク等といった業種に多額の融資を行いました。バブル景気の過熱
を抑えるために、大蔵省は総量規制による不動産向けの融資に制限をかけたことが契機
となって不動産向け融資が沈静化し、平成4年ごろにはバブル崩壊となりました。バブル
崩壊後、建設業・不動産業・ノンバンク等の企業業績が悪化しました。これらの業種に融
資を行っていた金融機関は、返済不能の多額の融資(不良債権)を抱えることになり、金
融機関の経営を圧迫しました。不良債権の回収が金融機関の経営における最優先事項と
なり、行き過ぎた融資先への債権回収は、平成8年~9年にかけて中小企業に対する貸し
渋り・貸し剥がし問題へと発展し、大きな社会問題となりました。これらの背景もあって、
金融庁は金融機関の管理・監督を強化するようになりました。
 貸し渋り   経営に問題がない企業に対して融資が慎重になる。継続的な融資を断る。
 貸し剥がし  融資先の事情も考えずに、強引に融資を回収する。


(2)リーマン・ショックによる景気の低迷
 平成20年には、アメリカのサブプライムローン問題に端を発した住宅バブルの崩壊
により、アメリカの大手投資銀行であったリーマン・ブラザーズが破綻し、世界連鎖的
な金融危機(リーマン・ショック)が発生しました。これにより、日本経済にも大きな
打撃を与えました。特に米国の輸出に依存した製造業の業績不振は著しく、資金繰りに
困窮する中小企業が増加し、やむなく倒産においこまれる中小企業も多発しました。そ
こで、政府は中小企業への支援を強化するために、支援施策の強化や保証協会の信用補
完制度(セーフティーネット保証)を拡充しました。この中小企業支援の流れのなかで、
中小企業の資金繰りの課題を解決するため、中小企業金融円滑化法が施行されました。

 

2.中小企業金融円滑化法とは

                    (出典:金融庁ホームページ公表資料より)

 

 中小企業金融円滑化法は、中小企業又は個人から借入金・ローンにおける返済猶予等の
条件変更の申出があった場合に、柔軟に対応することを金融機関に求めるものです。あく
までも金融機関の努力義務であり強制力はありませんが、金融機関は金融庁への報告義
務があるので、実体は強制力の強いものと言えます。金融庁が公表している資料によると、
本法律が施行された平成22年から貸付条件の変更等の申込件数は大きく増加しました。
また、平成29年度の申込件数に対する実行件数の割合も97.2%と達成率となってお
り、中小企業の資金繰りの課題に対して一定の成果を上げていると言えます。

                 (出典:金融庁ホームページ公表資料より)

 

3.中小企業金融円滑化法の罪過と功罪
 中小企業金融円滑化法は、経営力の脆弱な企業を無用に温存させ、企業の健全な競争を
阻害し、経済の新陳代謝を遅らせたとの批判もあります。しかし、私見ではありますが、
金融機関の優越的地位の濫用によるデリバティブ取引の強要で多額の被害を受けた中小
企業もあります。また、中小企業は金融機関から融資を受けているという弱い立場から金
融機関と対等に交渉ができないという側面もあり、この中小企業金融円滑化法が果たし
てきた役割は大きいものがあったと考えます。中小企業の経営者においては、資金繰りの
課題解決手段として機能する中小企業金融円滑化法の精神に基づき、金融機関と対等な
交渉ができることを理解のうえ、経営改善に向けた自助努力が期待されます。


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