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民事信託を活用した事業承継

司法書士 小泉憲子(小泉司法書士事務所)

皆様は、「民事信託」という言葉をご存知でしょうか?

「民事信託」を使った信託契約をオーダーメイドで設計することにより、個人や中小企 業等でも相続や事業承継といった場面に大いに活用ができることになります。

今回は、『民事信託とは一体どういうものなのか?』『具体的にどのような場面で活用で きるのか?』『民事信託のメリット・デメリット』等の民事信託の基本について学びながら、 民事信託のスキームを理解することで、経営力の向上に繋がる一つのヒントとなりますよ う、ご紹介させていただきます。

 

■信託とは・・・

まず一般的に信託とは、(1)特定の者(受託者)が、(2)財産を有する者(委託者)から 移転された財産(信託財産)につき、(3)信託契約、遺言または公正証書等による自己信 託により(信託行為)、(4)一定の目的(信託目的)に従い、(5)財産の管理または処分およ びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすることです。(信託法 2 条1項)

 

■「民事信託」と「商事信託」の違い

例えば、信託銀行や信託会社が信託報酬を得るために業務を行うものが「商事信託」です。

「投資信託」は、その典型例であり、信託業法をはじめ、内閣総理大臣の免許や営業 保証金の供託等の規制を受けます。

一方、「民事信託」は、受託者が信託報酬を得ることを目的としておらず、信託業法の 制限を受けないため、受託者は、個人か法人かを問いません。そこで、自分の息子や娘を 受託者として土地や株式を信託の対象とすることができることから、「家族信託」とも呼 ばれることもあります。つまり、我々一般の人々が“財産管理の一手法”として利用でき る仕組みです。では次に実際に民事信託(自己信託*)を活用した事業承継の具体的事例と解決策、そ のメリットをご紹介します。

*自己信託・・・「信託宣言」と呼ばれる制度。委託者が受託者(委託者=受託者)と なる形態。

 

 

■自己信託で中小企業の円滑な事業承継を試みる

(社長X)

(長男A) (二男B) (三男C)

【事例】

灯油を販売する甲(株)の社長であるXは、自社株 100%保有しています。子供は、長 男A、二男B、三男Cの3名ですが、長男Aを後継者としたいと考えています。 今期は暖冬の影響を受け、会社の業績が著しく悪く、創業以来初めて純資産がマイナ スとなってしまいましたが、来期以降は業績の回復が見込まれます。そこで、株価評価 に値が付かないこのタイミングで株式を長男Aに生前贈与しておき、かつ、長男Aを後 継者として確定させてしまいたいと考えています。 ただし、社長Xはまだ完全に引退するつもりはなく、代表権や経営の決定権も当分は 自分の手元に残しておきたいという希望があります。

【信託を使った解決策】

まず、Xは、公正証書による書面で甲(株)の株式すべてを信託財産とする自己信託 を設定します。その内容は、受託者をX自身(つまり委託者=受託者)、受益者を長男A とします。これにより、社長Xは、受託者として引き続き議決権を行使できるため、甲 (株)の経営権を残したまま、実質的に株式を後継者である長男Aに贈与したのと同様 の効果が得られます。また、社長Xの死亡により信託が終了するように定めておくこと により、相続開始時には、確定的に長男Aが株式を取得し、議決権を行使(経営の決定 権を取得)できるようになります。

【本件のポイント】

自己信託の設定により、甲(株)の株式は信託財産となり、その利益は受益者である長 男Aのものとなりますが、依然として受託者であるXの管理下に置くことができます。 これにより税務上は、Xから受益者である長男Aに株式が贈与されたものとみなされ、 贈与税の課税対象となります。しかし、今期の業績不振により甲社の株価評価に値が付かなければ、贈与税を課税されることなく後継者である長男Aに株式の承継ができることに なります。

 

【遺言による事業承継スキームとの相違点】

遺言による指定により、長男Aを株式の承継者とすることは可能ですが、以下の点にお いて、信託を活用するスキームにメリットがあると考えられます。

(メリット① 相続時の株価高騰リスク回避)

遺言による指定に基づき、相続により長男Aが株式を承継する場合、将来Xが死亡する 時点で甲(株)の業績が良ければ、株価評価が大きなプラスとされ、多額の相続税を課せ られるリスクを負うことになります。一方、株価の低い今のタイミングで自己信託による実質的な生前贈与を実行することで、相続税対策を図りつつ、円滑な事業承継をすること ができます。

(メリット② 直接的な遺留分減殺請求の対象財産から外せる)

将来、長男Aが株式を相続により取得した際、これが二男Bや三男Cの遺留分を侵害し ている場合には、遺留分減殺請求を受ける可能性があります。これにより、株式が分散す るリスクや長男Aが株式の返還を免れるための代償金の負担リスクが発生します。そこで、 「中小企業経営承継円滑化法」により、贈与株式等を遺留分算定の基礎財産から除外する ことができます。ただし、この法律の適用の要件として、事前に関係者全員(推定相続人 全員)の合意が必要となっているため、実際上は、この要件をクリアするのは難しいのが 現状です。

(メリット③ 後継者にとっての安心感)

遺言は、死亡するまで何度でも書き換えることが可能であるため、現時点で後継者だと 指定されていても、長男Aは最終的に社長Xが死亡する時点で、自分が確実に経営権を承 継できるのか不安定な地位に置かれることになります。そこで、長男Aが信託契約におけ る受益者としておくことで、長男Aの知らないところで勝手に株式の承継者が変更される というリスクは排除することができます。

 

■最後に・・・

いかがでしたでしょうか?今回は、スペースの関係上、ほんのさわりの部分しかご紹介 できませんでしたが、これまでの制度では解決できなかった部分も、この民事信託を活用 することで多くの道が開かれつつあります。まだまだ始まったばかりですが、アイデア次 第で、使い方は無限に広がります。この新たな分野に、ぜひ皆様と一緒に取り組んで行き たいと思っています。 

 

 

 

 

 

 

 

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