新時代のリタイアメント・プランはどのように変わるのか!


1.はじめに

最近米国の若者の間で話題となっているライフスタイル「早期リタイアして自由に暮らす生き方」FIREFinancial Independence Retire Early)を紹介する書籍が大変人気となっております。おそらくコロナ禍により失業や収入の減少という環境変化が背景にあると思いますが、このような欧米の若者のライフスタイルの変化が日本の中小企業のリタイアメント・プランにどのような影響があるのかについて考察して参ります。

 

2.従来の早期リタイアとFIREとはどのような違いがあるのか?

日本でもコロナ禍によりリモートワークなどを導入する企業が急増しておりますが、今までと違った働き方の選択肢が増えたことで60歳の定年まで勤務するという日本の終身雇用についても人生設計とともに改めて考え始めた人が増えています。そこで働き方の一つのヒントになるのが、欧米で流行しているFIREです。

FIREとは「Financial Independence(経済的自立), Retire Early(早期退職)」の頭文字で、端的にいえば「早期退職して、お金のためだけにやりたくない仕事から自分を解放する」というライフプランや概念を指します。言葉通りに解釈すると、「充分な貯蓄がある富裕層だけが実現できる悠々自適の生活」というイメージを抱く人も多いのではないでしょうか。

しかしFIREが従来のそれと違うのは、ビジネスや資産運用で成功したり遺産相続したりといった特定の人だけがなし得る生活ではないことが最大のポイントです。これまでにFIREを達成した人達は、毎年の生活費をリタイア後も継続的に行える投資の収益を得ることで賄えるような仕組みを完成したのです。

そんなFIREの達成者は、マイホームやマイカーに強い憧れを持ちません。そのために人生の貴重な時間の大部分を労働に充てることを嫌います。あくまで目的は豊かな人生設計を自分で作りあげていくという共通認識が背景にあるようです。

 

3.早期リタイアにはいくらあれば可能か?

早期リタイアのために必要な貯蓄額として「年間支出の25倍が必要」というのが年齢に関わらず共通の指標となっていますが実際にはそんなに必要ありません。

もし若い方であれば逆に「25年分の生活費しか用意できていないのでは全然足りない!?」と思う方もいるかもしれません。しかし重要なのは、このFIREの貯蓄額は「投資元本」であるということです。リタイア後は「投資元本」からの収益だけで生活費を賄うという生活スタイルが基本原則となるので、「投資元本」が目減りしていくわけではありません。

また、必要な貯蓄額については参考として総務省による家計調査の消費支出(総世帯・2019年平均)で検証してみます。1世帯あたりの平均支出は月額249,704円で、年間では2996,448円です。FIREの目安である25倍を掛けると、約7,500万円という金額となりますが公的年金等による収入もありますので投資収益と合わせた収入から総支出額を引いた金額が早期リタイアに本当に必要な金額となります。勿論想定外の病気や自然災害による被害が発生した場合も考慮しないといけませんので必要最低限の保険に加入しておく必要はあります。

 

4.FIRE」は完全なる早期リタイアだけを目指しているわけでない!

FIREが早期リタイアと大きく異なるのは、経済的に自立することだけがゴールなのではなく、あくまで自分らしく豊かな人生を楽しむことが目標とされています。従って必ずしも「1億円を40歳までに貯めて引退する」という貯蓄額の目標さえ達成すればいいという訳ではありません。例えば自分の好きな副業をしながら収入を得る「サイドFIREや、気の合う仲間がいる職場に週12日だけ短時間働きに行ったりする人など色々なタイプのFIRE実践者」がいるようです。

 

5.FIRE」を実現するために絶対に必要な金融リテラシー

令和元年6月に金融庁ワーキンググループが作成した報告書が1人歩きして社会問題化した老後2,000万円問題がありました。それでは2,000万円という目標金額を設定したとして、どのように貯めればいいのでしょうか。私は、ファイナンシャル・プランナーとして相談者が目標額達成に向けて、住居費や教育費などの大きな支出の見直しを推奨しています。ただ支出を節約するよりも収入を増やす方が影響力は大きいと思いますので過度な節約よりも、早い時期から少しでも多くの資金を投資に回すことを勧めています。私が最も重視しているのは、複利効果を得るためになるべく長期間投資を続けるというシンプルな方法です。

特に成長している海外市場のメリットを享受するために米国株式や新興国株式に連動するインデックスファンドや海外ETFなどに投資し、できる限り投資元本には手をつけないことを推奨しています。早期リタイアのためには収入を最大化するだけでなく、ある程度のリスクを取った資産運用の重要性を理解しないといけません。例えば毎月3万円で積立投資を続けてかつ年利回り10%で運用リターンを上げることが出来れば193カ月で2000万円に増やすことは可能です。

(注)(確定拠出年金などで複利の運用益が非課税の場合)

 

6.まとめ

以前は個人年金保険などで簡単に老後資金を確保することが出来ましたが現状の金利水準では魅力的な保険商品は無くなりました。特に中小企業では、優秀な人材をつなぎとめておくためにも企業型確定拠出制度の導入などでリタイアメント・プラン対策が必要です。同時に日本人が欧米並みに金融リテラシーを高めていくことが最大の近道だと思います。

 

「参考資料」金融審議会 市場ワーキンググループ報告書01.pdf (fsa.go.jp)

 


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